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___チチチ…___

あぁ…また攻められなかった…

あの後クローゼットの中からユーリの部屋へと移動して深夜まで抱かれた。
このまま流れて受けになるのは良くないよね。うん、良くない。
隣で気持ち良く寝息を立てているユーリを起こさない様、そっと起きて身支度を整えていたらドアを叩く音がした。

___コンコン___

「フィル、いるんだろ?」

「マシュー様っ?すみませんっ、今開けます!」

慌ててドアを開けると、可愛いバスケットを持ったマシュー様が立っていた。

「朝はまだ食べていないだろう?焼いたスコーンと紅茶を持って来た。」

特に昨日の事を聞いてくるわけでもなく、逆に僕を気遣う雰囲気を感じる。
フワリと香るスコーンの香りと温かな紅茶の香りが鼻をくすぐった。

「こちらがスコーン用で…こちらが薔薇のジャムだ。警備視察で街に行った時に美味しそうなオレンジと綺麗な薔薇を見つけてな。店の者から教えてもらって作ってみたんだ。紅茶に入れて飲んでくれ。」

「わぁ…」

2つの可愛らしい瓶の中にオレンジとピンクのジャムが入っていた。

「可愛い。」

「可愛いだろ?」

「えぇ、よくこんな可愛いラベル付きの瓶を見付けましたね。」

「それは俺が作った。」

ん、俺が作った?

「俺が?」

聞き違いかな?

「俺だ。」

間違えてなかった。
ドヤ顔で答えるマシュー様と瓶を見比べる。
可愛い瓶にオレンジにはオレンジの可愛いイラストが描いてあり、薔薇には綺麗なリボンが華結ばれていた。

「フィルの反応を見ていると作り甲斐があるからな。つい張り切ってしまった。」

少し照れるマシュー様。
これ、ハナ様の本で見た。ギャップもえ…だっけ?

「いいえ、凄く嬉しいです。ありがとうございます。」

「あぁ、ユーリには食わせんで良い。また感想を聞かせてくれ。あと、さっきクライブから話を聞いたんだが、食事が済んだらハナ様の部屋へ行ってくれ。ニール達も行っているはずだ。」

「はい。」

「さて…」

___バキ…___

僕にバスケットを手渡した後のマシュー様は拳を鳴らしながらみるみる怖い顔になっていった。

「マシュー様?」

「今回ハナ様絡みの調査なんだが、魔術師も同伴するにあたってお前を指名してきたそうだ。あの色ボケは…お前の調査期間中みっちり教育をし直そうと思っている。」

「色ボ…」

「恋人の都合も顧みず、アイツは自制が全く足りん。丁度サラがそちらに付いて行っている間時間も出来るし、しっかりと教えないとなぁ…ユーリ。」

「何でしょうか、俺は今日休みのはずでしょ?」

___ギュッ___

「…っ…ユーリ!」

寝ていると思っていたユーリが後ろから抱き締めて僕の頬にキスをした。

「…チュ…おはよう、フィル。」

「んっ、おはよ…って、起きてたの?」

「お前がいないと寒くてすぐ目が覚める…チュ。」

ユーリが僕の首筋にキスをすると、昨日の事が蘇った。

「ちょ…っ…マシュー様の前でっ…」

___スパンッ!___

「っ!」
「痛っ!」

「そういう所だ、自重しろ馬鹿者がっ。」

「痛いなぁ…良いじゃないですか、内緒にしている訳でもないんだし。」

腰に回された手がグイッと、後ろへ引かれるとユーリの身体へと吸い込まれ、そのまま顔を隠された。 

「でも、はマシュー様にも見せたくないから…うん、そうですね。自重します。」

「???」

どの顔?

「お前なぁ…ハァ…とにかく、フィルが調査に行ってる間、お前は俺と鍛錬だ。分かったな。」

「嫌です。」

「却下だ。」

その後も行く行かないと言い合ったものの、マシュー様の「調査が終わったら休暇をやる」に渋々引き下がってくれた。

___コンコン___

「失礼致しま…」

あ、この風景…前に見た。
後ろの窓から差し込む日差しを背にしているので表情は暗いけど、これって本か何かの真似だよね?
うん、最近分かってきた。
ダニーとニールの間に真顔で座っているハナ様は物語に出てくる司令官の様。
ダニーもよく付き合ってるなぁ。
隣のニールが戸惑って置いてかれてるよ。

「…待ってたわ。」

「遅くなって申し訳ございません。」

「話は聞いているかしら?」

「マシュー様から調査に同行するようにとだけ…ハナ様?」

プルプルと震えだすハナ様に僕は驚いて近付いた途端、ダニーが説明してくれた。

「数日前にハナ様に神託がおりたみたいで…」

___ガバッ!___

「わっ!」

「思い出したのよっ、森の奥の湖イベント!」

話を聞くと森の奥には大きな湖があり、そこにはユニコーンがいるという。

「湖なんかあったっけ?」

「ないよね?」

「聞いた事ないなぁ…」

僕達は色々と調査で森の中を散策しているけど、そんな湖は見た事がない。

「それは時期とタイミングなのよ、今月の満月の夜に数時間だけ現れるの。あと、ユニコーンに会うには妖精の粉も必要なんだけど…」

「だから僕の同伴が必要なんですね。」

「そうなのよ。このイベントは私、聖女が湖に調査する時に同伴した受キャラが偶然遭遇するのよ~!」

___受キャラ…___

「いやいや、僕は受じゃないから。」

「まだ言ってるの?良い加減認めなさいよ。」

___ヒュオッ…___

「あぁあっ…でっ…でもさぁ、ユニコーンってじゃないと近寄らないんじゃなかったっけ?」

久し振りに僕の魔力が暴走しそうになったけどニールの言葉で冷静になった。

「確かに。乙女はいますけど…ハナ様は正直聖なる乙女じゃありませんよね?」

あの本やスマホを借りてると、ユニコーンにまで色々と妄想しかねない。

「…それは否定しないけどさぁ…だから悩んでるのよ。」

すると、ニールが名案浮かんだとばかりに僕に言った。

「フィルがなれば良いんじゃない?」

「は?」

「まぁ、このメンバーの中では良いかもね。」

「ダニーまで何言ってんの?」

___バンッ!___

「それは駄目よっ。」

そうだよね、聖女のハナ様がいるのに…

「フィルはユーリにグズグズに愛されてるから処女すらないじゃないっ!」

___ゴォォオッッ‼___

「ハナ様っ!」
「うひゃあっ‼」
「シールドォオッッ‼」

久々に豪雪を降らせた。
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