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最近僕は時間があればなるべくマシュー様に付いて回っている。
何でって?
それは、この前見たマシュー様のカッコいい壁ドンを見て勉強したいと思ったんだよね。
マシュー様みたいに屈強な身体にはなれないけど、仕草は参考になるよね。

『本やスマホばかりじゃなく実際出来る人が近くにいるなら見て勉強するのも1つの手よ』

これは、ハナ様に言われた事だ。
確かに。ユーリが交際宣言をしてから実は付き合っていたとみんなが公表しだしたので付き合い方に色々ある事を知った。
その中でも、僕が尊敬しているマシュー様のカッコいい仕草が出来れば、きっとユーリも…

「サラ、髪を梳いてからくくったのか?」

「ん~、梳いたよ。手で。」

「お前の髪は細いから何度も櫛で梳けと…」

「え~、面倒臭いよ。」

「もういい、そこに座れ。」

いつも綺麗で物腰の柔らかいサラ様の朝の姿。
いつも朝礼後や仕事の合間に見かけるけど、こんな姿を見た事がない。
先日会った時もしっかりと話しかけてくれたんだけどなぁ。
初めて見たけど本当は朝が弱いらしく、逆に朝が弱そうなマシュー様がテキパキと動いていた。

「ほら…しっかり目を開けろ。」

「ん~…」

ゴソゴソと、腰に備え付けているバッグから櫛を取り出し、サラ様の髪を手慣れた手付きで梳いていく。
携帯用のマジックバッグだそうで、団長に就任した時の就任祝らしい。
携帯用と言うからそんなに入らないとは思うけど…僕が欲しいアイテムの1つなんだよねぇ…
こんなのがあったら僕だって…


******フィルの妄想******


【要注意】
こちらはフィルの願望です。


『もうっ、ユーリ起きてっ!ほら、尻尾ボサボサじゃんっ。僕が手入れしてあげるよ。』

『…え、こんなのすぐにボサボサになるから良いんだよ。』

『ここに座って。』

しぶしぶユーリが僕の前で後ろ向きで座って…

『全く…ほら…この付け根とか…』

『……ん…フィル…くすぐった…』

『クスクス…昨日は気持ち良いって、言ってたよ?』

『……バカ…』



*******************


…で…そのままこっちを向かせて…


「…フフッ…」

「…ル…フィル?」

「…ハッ、スミマセンッ。」

「いや…別に良いんだが…大丈夫か?何か複雑な顔をしていたぞ?」

複雑?そんな顔した覚えないんだけど…

「マシュー、もう良いでしょ?」

「まだだ。」

ついと、マシュー様の指ががサラ様の唇に触れ、そのまま頬へと移動した。
…っ…僕、ここにいていいのかな?
甘い雰囲気でドキドキしちゃ…

「お前、顔洗ってないだろ。」

「洗ったよ。」

「どうせ適当にあらったんだろ。目元…汚れてる。仕方ないな…ほら。」

「…ん。」

甘くなかった、小さな子のお世話をするお母さんだった。

マシュー様が再びバッグから濡れタオルを渡して顔を拭かせた。  
髪を整えて顔も拭き終わるけど、まだポヤポヤしてる。

「マシュ~…」

「何だ。」

「今日は…トロトロなオムレツ食べたいなぁ…」

「お前、フィルの前だろ。しっかりするんじゃなかったのか?」

そう。
最初は確かに朝もキラキラしていた。
こんなポヤポヤした感じじゃなかったんだけど…

「ん~…もぅ良いやって思って。フィルなら俺のこの姿を誰にも言わないでしょ?こんなだらしない姿は見せないよ~。」

「言いません。」

…て、いうか言えません。言える訳がない。
サラ様のこのギャップをマシュー様が必死に隠すのがよく分かる。
僕がユーリを好きじゃなければきっと魅了されていただろう。
普段は凛としているサラ様のこんなポヤポヤした姿…

「ハァ…待ってろ…」

「……ん…待ってる…」

サラ様が手を伸ばし、マシュー様の肘辺りからついと流れるように指先へと指を這わして手を絡めてから名残惜しそうに離れていった。

「どうした?」

「何となくしたかっただけ。」

「…フッ…そうか。」

マシュー様もまんざらでもなさそう。
大人だなぁ…僕もユーリに今度してみようかなぁ…
少し目を覚まし始めたサラ様と話していたら良い香りがして、少し大きめのトレーに食事を乗せたマシュー様が戻ってきた。

「フィルも食べるだろ?」

「…あ…ありがとうございま…」

んんん?

サラ様の前に置かれたオムレツは綺麗な黄金色に赤いソースが食欲をそそり、新鮮な葉野菜が彩りを更に上げていた。
うん、サラ様が頼んだしね。分かるよ。
でもさ…僕の前には愛らしいお皿の上に乗った…これ、フレンチトーストだよね?
ふんだんに散らされた新鮮な果物…どこで仕入れたんだろ…生クリームを添えられて…あ、これ、いちごのソース?

「…どうした…イマイチだったか。そうだな、これは必要だ。忘れてた、仕上げだ。」

マシュー様が1本のピンをフレンチトーストの上に可愛く刺した。


………手作りのウサギの旗………


「…フッ…やっぱり、お前に似合う。」

いや、カッコイイ声で満足しないでマシュー様っ。僕、攻だからっ!カッコいいの目指してるから‼︎

「うんうん、似合うねぇ。俺は甘いのはたくさん食べられないし、こんな可愛いのは似合わないからねぇ。」

いえ、今の貴方なら似合うと思いますけど?
もぐもぐ口にオムレツを運び、マシュー様の入れた紅茶を飲むサラ様。
そのポヤポヤした愛らしさは今の貴方にぴったりです!

「…サラ…付いてる…」

「……んっ…」

マシュー様がサラ様の口の端に付いたソースを親指で拭き、そのまま自分の口へと運んだ。

「…うん、今日のソースの出来は良いな。」

「…ん…美味しいね…」

……どうしよう…フレンチトーストがいつもより甘く感じる…
すると、マシュー様から食べるペースが落ちてしまったのを愛らしいお皿やカップに目を奪われていると思われ…

「お、フィル。今日の皿がいつもと違うと気付いてくれたか。」

嬉しそうに、これは全部食べると『今日も1日良い事があるよ!』的なメッセージが見れる事や、旗は即興で作った割に出来が良かったなど、嬉しそうに話すマシュー様。

「…マシュー…ニンジン食べたくない…」

「今日は星型にしてやっただろ、食べたらご褒美やるから。」

何でここにキッチンがあるのか良く理解した朝だった。
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