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変化の前兆

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その夜、マサイは僕と酒が飲みたいと言った。そんなこと言うやつだったっけ?とか思いつつ、とりあえずマサイ分のビールを注いだ。今日もキンキンに冷えてやがる…!
 
「てかさ、どこからのむの?それ?」
 
 そう、マサイは人形だ。物理的に口が開くこともない。え、まさか開く?
 
「ふっ。物理的には飲めない。だが気持ち的に飲むのだよ。御供物みたいなものさ。」

「ふーん」
 
まあ、じゃああとでマサイ分も飲んで処理するかー!僕は一気に喉に黄金水を流し込んだ。

「おかわり」

と、マサイの声がした。
  
ん?ふと目をやるとマサイのグラスが空になっていた。え?どゆこと?物理的に減っていますけど?御供物ってそういうのだっけ?
          
「お、おう…?」
 
 僕はマサイのグラスに注いだ。どう減っていくのか、見逃さないように凝視する。さあ、どうくる?とその瞬間、
 
『ゴキュ、ゴキュ』
 
 といい音が鳴り響いた。え、普通にグラスから減ってるし。てかめっちゃ飲むやん。
 
「あの、マサイさん?それ、どうなってんの?」
 
「どうって、飲んでいる」
 
「え、どこから?」
 
「ふっ。世の中にはね、なぜかそうなるというものがあるのだよ。これはそういう類のものだ。」
 
 僕は、実はマサイがマサイ人形に憑依してるのではなくて、見えないおっさんが普通にそこに座ってる説を心の中で考察した。でも怖いしやめよう。とんだホラーだ。
 
 マサイはどことなく嬉しそうに、
 
「楽しいものだね。こうやって酒を飲むのは。久しぶりだよ。」
 
「そういえば、今まで出会った人たちとはこうやって飲まなかったの?」
 
「うむ。まあ普通は幽霊が話しかけてきたら怖がるだろう?誰しもが、キミのように接してくれるわけではないのさ。キミはその点、いい意味で狂っているよ」
 
 たしかに、割とすんなり受け入れていた感はあるな…。
 
「キミはまるで友人のように接してくれた。
これは私には嬉しいことだったのだよ。礼を言う。」
 
「ふん、別にー?酒くらいいくらでも付き合いますけどー?」
 
 25歳がデレますよっと。
 
「こうしてまた、キミと酒を飲み交わせることを願っている。私の楽しみなのだ。」
 
 またゴキュゴキュ音を鳴らして、グラスの黄金水が消滅する。マジでどうなってるんだこれ。
 
それから寝るまで、他愛のない話をし続けた。生きた時代も(たぶん)、物理的にも違う存在と過ごしたこの日々は、まるで夢のようだとも思いつつ。気づけば僕は、酔い潰れて眠っていた。
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