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 ブレイクを助ける、ということがどう言うことだったのかを聞くと、ブレイク本人とレイ、そしてあの場に来ていたヴィクターが三者三様になんとも言えず渋い顔をした。
「?」
 首を傾げると、首の後ろに手を当てながらブレイクがため息をつく。
「せっかく、判らないままタイが片つけてくれたんだから、余計な好奇心はしまって…おけないか」
 わたしの表情から読み取って、聞こえよがしにため息をついた。
「トワ、お前、俺に食事をさせる時、顔の位置が低いと思わなかったか?」
 思った。小柄とは思えないから、どんな姿勢で置かれているのか、それともものすごく座高が低いのかとか考えていた。
「お前が脳天気なのはわかった」
 なんだか表情を読んで話を進めるのをやめてほしい。多分合っているからいいんだけど。
「磔にされていたんだ。床に。そうして、合わせてあるだけで胴は胸と腹で切り離されていた」
「…っっ!!?」
「魔法で血は止まらないが流れでもしない状況にされていた。血は回らないのに、呼吸や口から入れたもんは体の中を回るんだから変な状況だったよ。そう言うふうに、術をかけられていた」
「え、なんで…」
「あの部屋の術が切れれば、そのまま失血死か、そもそもその状況で即死なのか。それをタイに助けられた。なんでだろうなぁ。獣人の俺がレイを番にして王家から獣人に連なるものを出したことがよほど腹に据えかねたんじゃないか?」
 開いた口も塞がらないし、言葉もない。
 気づかず、手に力が入っていたらしく、濡れた鼻先が触れて気づいた。タイが鼻をくっつけてこちらを見ている。
「本来なら獣人が人間に遅れをとることはない。そいつの不注意もある」
 それにしたって。
 それにしたって、レイにしたことも、ブレイクにしたことも、常軌を逸している。どうしたらそんなことを考えつくのか。
 手のひらに傷がつくほど握り込んでいた手を開いたけれど、それでも頭が沸いて腹がむかむかする。
「レイのお父さんはどうして何も言わなかったのっ!」
「父上はご存知なかった」
「は?」
 そんなことがあるだろうか。一国の王が。自分の息子でありその国の王子の身に起きていること、しかも自らの城の中で行われていることを知らない、など。


「トワ、わたくしは、元々はレイ殿下の婚約者のはずだったのよ。竜騎士を輩出する辺境伯家の娘は王家と繋がることになっていて、第一王子は殿下だった。黒を持って生まれた殿下は、王家では黒持ちは竜騎士になることになっているの。そうしないと、生き延びることが難しくなるから。その後他に子供がいなければ竜騎士と王を兼ねた方もいらっしゃるのよ」
 そのままの方が、アメリアにははるかに良い婚約者だったろうに、と言うのが顔に出たらしい。くすくすと笑っている。
「辺境伯家としては、王家の竜騎士でも王太子でもいいのよ。ただ、王家としては辺境伯家と繋がった男児が王位を継いだ方が都合がいい。絆を結ぶべき竜を探していたレイ殿下は、その竜が見つかる前に今の王妃があの暴言を吐いて王家から竜騎士を輩出できないようにしたの。前にニルス王弟殿下が仰っていたでしょう。王家で龍に近づけるもう1人の方よ。竜騎士になる道を閉ざされた殿下は、魔力飽和を起こさないために外に出続けたの。魔素だまりで魔物と化したものを討伐し、魔素だまりを見つけて対処して。そうしているときに獣人のブレイクに出会って、行動を共にした。その中で番だと熱烈に告げられた」
「そうは言われても、人間には番という感覚がない。知識として獣人など一部の種族にとって非常に重要な存在だと言うことは知っていたが」
 ピンと来なかったんだろうな、とレイの言い方からわかる。
 それは獣人であるブレイクの側でも理屈は理解していて、とにかく信頼関係を築いていたらしい。
 そのなかで、城から召還された。王家の人間として獣人と行動を共にしているのはどうか、と。
 申し開きに出向き、そうしてあの閉ざされた部屋に幽閉された。一連の全て、王妃と弟王子の独断だった。家を出ていどころの分からないレイとアメリアを婚約させることはできず、その間に様々な話は進んでいた。
「陛下は、殿下を探さなかったのですか?」
「探されていた。お忙しい公務の合間を縫って。だが、そもそも危険な場所にばかり赴いていた。その上、黒持ちで生まれたことで命の危険は大きかった。魔素だまりに近づくことは、魔素変換で自らの魔力にしてしまう可能性もあるんだよ」
 セージ先生の声が不意に割って入る。違う種族でありながら辺境伯家に滞在するこの博識のエルフは、どうやら王家にも出入りしているらしい。
「そうならないために、そして何より国のために動いていらっしゃるとお伝えしていたが、ある時を境に魔物の出没や被害の報告が増え、報告を受けていない魔素だまりの被害も出てきた。それが、連絡が途絶えた王子の身に何かがあったのだと思わせた。無責任に、投げ出すような方ではないと陛下が信じていたからこそ、悪い方に考えてしまったんでしょう」



 そんな、悪意や思惑が錯綜する中で聖女召喚が行われて。
 巻き込まれて来ちゃったけれど、放り出された最初こそ理解できないまま何かを覚悟した…のかもしれないけれど、今こうしてここにいられることは確実に幸運だと思う。
 今聞いたことは感情は全く追いつかないし、理解ができる話でもない。
 事実、として知る以上のことができる気がしない。
「あの、『精霊に傷を負わされたわたし』はみなさんのご迷惑にならないですか?」
「誰からそんな話を」
 言いかけて、あの場で聖女がそう叫んでいたわね、とアメリアが思い出したように言う。それからふう、とため息をついた。
「それよりも、精霊を消滅させるつもりで他人を攻撃させ、精霊を失ったこと、の方が問題だから大丈夫よ」



 それ、大丈夫なのかしら?



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