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 よくもそんなことを思いつくものだ。
 そして、もう一つの可能性にもふと思いついてしまう。


 


「魔力を吸われたのも、レイ?」

「聖女を呼ぶのは国の重大な行事だ。王家の威信にもかかわる。時期ではなくとも聖女を呼ぶことができたとなれば、王家への支持は増す。何より、魔素だまりが増えていた」

「そう言って、奪われていたの?」


 ちょいど良いだろうとも言われたんだ、という言葉に首を傾げた。向こうには見えているからその仕草で説明をしてくれる。


「黒を纏っている人間は長生きできない。自分の中の魔力が飽和して魔力酔いを起こす」

「自分の体のことなのに?」

 魔力が強いと言われる「黒」を持つもの。わたしは黒だけれど、そもそも魔力を使えていないから黒の意味はないようにも思う。


「食事や、それこそ呼吸、常にさまざまな方法で魔素を体内に取り込んで自分の魔力に変換している。普通なら、生活していく中での魔道具の使用などで魔力を消費していくから許容量を超えて魔力を蓄えることはない」

 だが、とブレイクが言葉を継いだ。レイの方から呻き声が聞こえる。一定の周期で装着された悪趣味が魔道具が働くらしい。

「魔力に応じてその変換量は当然変わる。変換効率も。人間で黒持ちは、変換に追いつくほど使うことができない」

「そんな…わかっているなら何か方法はないの?」

「…トワを助けたのは辺境伯家だったな。辺境伯家には黒が生まれるのは事実だが、重要なのはそこではない。辺境伯家の黒持ちは、大人になれるんだ」

「?」

「竜騎士の家で、さらに竜との絆も深い。絆を交わすことで竜と魔力を循環させるから魔力飽和による魔力酔いも起こさない。だが、誰でも竜と絆を結べるわけではない。レイは竜と絆を結んでいたが、王家が竜と絆を結べなくなったことでその方法は断たれた。俺と魔力を交わすことで問題は無くなっていたが、獣人を受け入れない人間は一定数いる」

 この世界の基礎知識がないことで、全てを説明してもらわないとわからない。
 わかるのは、獣人が差別対象になることがあるということなのか。

「疑問だらけなんだけど。ブレイクと魔力を交わすように竜と循環させるように、何かないの?」

「魔力が足りない、魔力枯渇を起こしている相手に魔力を移してやるのとは話が違う。黒持ちの飽和魔力を与えられたらなんの役にも立たない程度で相手が死ぬ」

「魔力枯渇?」

「魔力がそもそもないことも…まあ、ないわけじゃない。だがわずかでも魔力を持っているなら、枯渇したら生き死にに関わる」

「多くても足りなくても命に関わるのか…」



 不意に、どちらの声もしばらく聞こえなくなって不安になる。物知らずに説明するのは疲れさせたか。
 不安を感じ取ったのか、ブレイクが低い声で少し笑った様子があった。

「すまん。辺境伯家では教わらなかったか。随分と教え甲斐がある」

「わたし、そもそも魔力が使えなくて。ないわけじゃないらしいんだけど。」

 ついつい、ブレイク相手だと砕けた口調になってしまう。ブレイクの話し方もあるのだろう。

「魔力量も多いが…」

 何かまた、考えているような間がある。

「気になっていただが、トワ、お前から辺境伯家の竜騎士隊長の魔力を感じる」

「ヴィクター様?誰の魔力かわかるものなの?」

「読み取れるかは別として、魔力は一人一人違うからな。魔力枯渇でも起こして移してもらったか?」

「魔力が使えなくて、自分の中の魔力を使う感覚を掴むためだと、ヴィクター様の魔力を流してもらって、それを使うのを誘導してもらってました。ただ、どうにも壊滅的にその感覚が掴めなくて、手伝ってもらわないと全然だめなのよね」

 黒持ちどころか黒の竜騎士隊長の魔力を流されても大丈夫なのか、と呟く声がする。

 それは量を加減していたからではないのか?

「精霊に傷つけられたと聞いたが、魔力が使えないと言うことは見えてはいないのか」

「それ、辺境伯家でも言われてました。そのうち見えるようになるんじゃないかって」

 なるほど、と言ったブレイクがため息をつく気配があった。


「ずっと、気になっていたんだ。お前の頭のそれが重くないのか」


「?????」


「まあ、感じ取れていなければ重みも何もないのか」


 話が勝手に進んでいく。ブレイクがわたしではないに声をかけている。


「精霊は自分で傷つけたものは癒せないだろう」

「何をべそべそしているんだ」


 ああ、そう言うことか、と少しのやりとり…というか、わたしにしてみればブレイクの独り言の後で妙に納得したように呟いた。

「本来なら純粋な1属性のはずなのにお前からは2属性感じると思ったが。しかも属性変化で契約も解除されたか」



「あの、ブレイク?なんなの?」

「ああ、お前の頭にずっと乗っかってべそべそ泣いて張り付いているやつがいてな」


「いや、え?」

 聞こえないし、重みも感じませんが?


「そもそも視力が閉ざされているお前には見えないだろうが…名付けでもしてやれば聞いたり感じたり触ったりはできると思うぞ」

「いや、その前に、え、なに?」



「お前の目を傷つけた精霊だ。弾かずに受け止めたんだって?消滅する勢いだったところをその意を汲んで対照属性の精霊が繋ぎ止めたらしいんだが、結果くっついたらしい。で、そっちの属性の力はトワの傷にも有効だからとずっとくっついているらしい」

「治してくれているってこと?」

「治癒の力は弱いが、痛みを緩和したり安らぎは与えてくれるな」


「うん?よくわからないけど、ありがとう?」

「お前を傷つけたやつだぞ」

 呆れた声のブレイクがそのまま、は?と、少し大きな声を出した。


「トワに変なものは食べさせないと。トワの手から与えられるものに混入されたものは全部浄化すると言っている」

「そんなことできるの?」


 できるなら。レイにも、ブレイクにも安全な食事を食べてもらえる。





 けれど、そんなに簡単な話ではなかった。

 与え続けられた薬物を断つと言うこと。
 我慢強い人たちだけれど、見えないけれど、苦しむ様子は伝わってくる。


 姿を感じることもできない精霊の力を存分に借りる数日間が始まった。





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