上 下
3 / 86

しおりを挟む

 まずは、ダメもとで間違いならば帰ることができないものなのか、聞いてみた。それができるなら当然、おまけと判断された段階でご返却されているだろうと思えば、できないのだろう。
 案の定、アメリアが気の毒そうに首を振る。
「残念ながら、召喚する方法は伝えられていますが帰還させる方法は伝わっていませんの」
 うん、やっぱり。そして、確実に育ちの良い方々。おまけがなぜここにいるのかをむしろ聞きたいくらいだ。

「トワ、本来ならば、あなたのように巻き込まれた方は国でしっかりと保護し、生活を補償されてきました。これまでは」
「?」
「他国に先を越される前にと聖女召喚を急いだこの国には、もう1人貴賓を養う予算がないのです。聖女にどれだけ必要になるかわからないなか、得体の知れないもの、として処理されたのです」
「…まあ、得体は知れないですよね」
 納得するのか、という呆れ顔を尻目に、それにしたって、ずいぶんと簡単に本物を見極めたものだ。見極める方法でもあったのか。ただまあ、これまでも巻き込まれた人がいたという話ならば、先ほどの刺客の可能性あり、なんて言うのはでっち上げには違いない。
 でもその前に。
「わたしはどうしてこちらにいるのですか?国で処分と決まったのなら、このような待遇ではないでしょう?」
 聞いた途端、どうしようもなく大きなため息が聞こえた。
 ヴィクターが窓の外を示す。
「召喚の間から不特定の場所に転移させられたはずのお前を、あれが拾ってきた」
 あれ、と示された方を見て。
 絶句した。



 大きな顔が窓から覗き込んでいる。
 小説や漫画でみた。

 竜。真っ白な、竜。ヴィクターの黒髪はよく映えそうだ。




 ただ、反射的に固まってしまったのでそのまま見つめていると、じっとこちらを見つめる目は家で飼っていた犬が心配げにこちらをみていた時のようで。
 思わず、目を細めた。優しい子なのだろう。だから、捨てられた人間を助けてくれたのか。人間に、優しく扱われている子ということでもあるんだろう。ヴィクターの…なんだろう?こういう世界ならやっぱり、乗るんだろうか。


「ありがとう?」
 思わずかけた声に、ラウルがなんとも言えない顔をした。その目が彷徨って、そのうちため息と一緒に下を向いてしまった。
「諦めろ、ラウル。フォスが連れてきて、フォスを恐れなかった娘だ」

 少しだけ、ヴィクターの金色の目が和やかに細められる。そのままその目が、こちらに向けられた。
「わたしはヴィクター・アンフィス。リンド王国で竜騎士隊の隊長をしている。ここは王都…と言ってもはずれだが、アンフィス辺境伯家の竜騎士塔だ。フォス、あの白竜がお前の様子を見にくるので、本館には置けなかった」
 なるほど、竜が覗いても大丈夫な造りの建物、と。
「アメリアはわたしの妹だ。召喚の儀式に合わせて王宮に呼ばれていたんだが。聖女が困ることもあるだろうと世話をするようにと」
 そういえば、「聖女」と呼ぶのだなとふと内心で首を傾げる。そんな、国をあげてお金をかけて呼ぶような大事な人で、辺境伯家のお嬢様が世話係で呼ばれるような人、様付けじゃないのか。
「殿下に、下がって良いと言われましたので。おそらく、今後はあまり王宮に上がらずとも良いようになるのではないでしょうか」
「そうは言っても、王太子妃の教育はこちらから勝手に休むわけにはまいりません」
 我慢仕切れないようにエリンが口を挟む。ありがちな、異世界召喚の展開。アメリアは悪役令嬢役?とてもそうは見えない。あくまでも、主人公目線から見たご都合主義の役割分担なのだ。


 金色の目が不穏に光ってこちらに向けられる。妹さんを邪険にしたの、わたしじゃないんだけど?
「トワ、一度保護した以上、お前はアンフィス家の預かりとする。望むことはあるか」
 急に言われても、と思いながら、なぜかフォスという名前の竜の方をみてしまう。目が合うと、わずかに首を傾げる様子で、励まされたような気持ちになった。

「ここで生きていかなければならないのなら、いずれ近いうちには自分で働いて生活したいですけど。まずは、学ばせてください。この世界のことやこの国のことを」
「よし。アメリア、お前はトワにこの家の預かりとして生活していくのに必要なことを教えろ。そのほかは、好きに図書室を使えばいい。王家には伝令を出す。本来ならば国で預かるべき客人を我が家の竜が保護したため、その世話でしばらく妹は王宮に出仕できないと」



 お兄ちゃん、お怒りですね。
 ありがたいですけど。アメリアと目が合い、深い緑色の目が和んで微笑んだ。望ましくない状況だろうに。
「よろしくお願いします」
「兄が人の、それも女性の世話を買って出るなんて後にも先にもこれきりでしょうから。喜んでお受けしますわ」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移~治癒師の日常

コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が… こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18) すいません少し並びを変えております。(2017/12/25) カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15) エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)

自由気ままな生活に憧れまったりライフを満喫します

りまり
ファンタジー
がんじがらめの貴族の生活はおさらばして心機一転まったりライフを満喫します。 もちろん生活のためには働きますよ。

前世は大聖女でした。今世では普通の令嬢として泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!

月(ユエ)/久瀬まりか
ファンタジー
伯爵令嬢アイリス・ホールデンには前世の記憶があった。ロラン王国伝説の大聖女、アデリンだった記憶が。三歳の時にそれを思い出して以来、聖女のオーラを消して生きることに全力を注いでいた。だって、聖女だとバレたら恋も出来ない一生を再び送ることになるんだもの! 一目惚れしたエドガーと婚約を取り付け、あとは来年結婚式を挙げるだけ。そんな時、魔物討伐に出発するエドガーに加護を与えたことから聖女だということがバレてしまい、、、。 今度こそキスから先を知りたいアイリスの願いは叶うのだろうか? ※第14回ファンタジー大賞エントリー中。投票、よろしくお願いいたします!!

一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!

モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。 突然の事故で命を落とした主人公。 すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。  それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。 「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。  転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。 しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。 そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。 ※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。

形成級メイクで異世界転生してしまった〜まじか最高!〜

ななこ
ファンタジー
ぱっちり二重、艶やかな唇、薄く色付いた頬、乳白色の肌、細身すぎないプロポーション。 全部努力の賜物だけどほんとの姿じゃない。 神様は勘違いしていたらしい。 形成級ナチュラルメイクのこの顔面が、素の顔だと!! ……ラッキーサイコー!!!  すっぴんが地味系女子だった主人公OL(二十代後半)が、全身形成級の姿が素の姿となった美少女冒険者(16歳)になり異世界を謳歌する話。

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

貴方の隣で私は異世界を謳歌する

紅子
ファンタジー
あれ?わたし、こんなに小さかった?ここどこ?わたしは誰? あああああ、どうやらわたしはトラックに跳ねられて異世界に来てしまったみたい。なんて、テンプレ。なんで森の中なのよ。せめて、街の近くに送ってよ!こんな幼女じゃ、すぐ死んじゃうよ。言わんこっちゃない。 わたし、どうなるの? 不定期更新 00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

嫌われた妖精の愛し子は、妖精の国で幸せに暮らす

柴ちゃん
ファンタジー
生活が変わるとは、いつも突然のことである… 早くに実の母親を亡くした双子の姉妹は、父親と継母と共に暮らしていた。 だが双子の姉のリリーフィアは継母に嫌われており、仲の良かったシャルロッテもいつしかリリーフィアのことを嫌いになっていた。 リリーフィアもシャルロッテと同じく可愛らしい容姿をしていたが、継母に時折見せる瞳の色が気色悪いと言われてからは窮屈で理不尽な暮らしを強いられていた。 しかしリリーフィアにはある秘密があった。 妖精に好かれ、愛される存在である妖精の愛し子だということだった。 救いの手を差し伸べてくれた妖精達に誘われいざ妖精の国に踏み込むと、そこは誰もが優しい世界。 これは、そこでリリーフィアが幸せに暮らしていく物語。 お気に入りやコメント、エールをしてもらえると作者がとても喜び、更新が増えることがあります。 番外編なども随時書いていきます。 こんな話を読みたいなどのリクエストも募集します。

処理中です...