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しおりを挟むまずは、ダメもとで間違いならば帰ることができないものなのか、聞いてみた。それができるなら当然、おまけと判断された段階でご返却されているだろうと思えば、できないのだろう。
案の定、アメリアが気の毒そうに首を振る。
「残念ながら、召喚する方法は伝えられていますが帰還させる方法は伝わっていませんの」
うん、やっぱり。そして、確実に育ちの良い方々。おまけがなぜここにいるのかをむしろ聞きたいくらいだ。
「トワ、本来ならば、あなたのように巻き込まれた方は国でしっかりと保護し、生活を補償されてきました。これまでは」
「?」
「他国に先を越される前にと聖女召喚を急いだこの国には、もう1人貴賓を養う予算がないのです。聖女にどれだけ必要になるかわからないなか、得体の知れないもの、として処理されたのです」
「…まあ、得体は知れないですよね」
納得するのか、という呆れ顔を尻目に、それにしたって、ずいぶんと簡単に本物を見極めたものだ。見極める方法でもあったのか。ただまあ、これまでも巻き込まれた人がいたという話ならば、先ほどの刺客の可能性あり、なんて言うのはでっち上げには違いない。
でもその前に。
「わたしはどうしてこちらにいるのですか?国で処分と決まったのなら、このような待遇ではないでしょう?」
聞いた途端、どうしようもなく大きなため息が聞こえた。
ヴィクターが窓の外を示す。
「召喚の間から不特定の場所に転移させられたはずのお前を、あれが拾ってきた」
あれ、と示された方を見て。
絶句した。
大きな顔が窓から覗き込んでいる。
小説や漫画でみた。
竜。真っ白な、竜。ヴィクターの黒髪はよく映えそうだ。
ただ、反射的に固まってしまったのでそのまま見つめていると、じっとこちらを見つめる目は家で飼っていた犬が心配げにこちらをみていた時のようで。
思わず、目を細めた。優しい子なのだろう。だから、捨てられた人間を助けてくれたのか。人間に、優しく扱われている子ということでもあるんだろう。ヴィクターの…なんだろう?こういう世界ならやっぱり、乗るんだろうか。
「ありがとう?」
思わずかけた声に、ラウルがなんとも言えない顔をした。その目が彷徨って、そのうちため息と一緒に下を向いてしまった。
「諦めろ、ラウル。フォスが連れてきて、フォスを恐れなかった娘だ」
少しだけ、ヴィクターの金色の目が和やかに細められる。そのままその目が、こちらに向けられた。
「わたしはヴィクター・アンフィス。リンド王国で竜騎士隊の隊長をしている。ここは王都…と言ってもはずれだが、アンフィス辺境伯家の竜騎士塔だ。フォス、あの白竜がお前の様子を見にくるので、本館には置けなかった」
なるほど、竜が覗いても大丈夫な造りの建物、と。
「アメリアはわたしの妹だ。召喚の儀式に合わせて王宮に呼ばれていたんだが。聖女が困ることもあるだろうと世話をするようにと」
そういえば、「聖女」と呼ぶのだなとふと内心で首を傾げる。そんな、国をあげてお金をかけて呼ぶような大事な人で、辺境伯家のお嬢様が世話係で呼ばれるような人、様付けじゃないのか。
「殿下に、下がって良いと言われましたので。おそらく、今後はあまり王宮に上がらずとも良いようになるのではないでしょうか」
「そうは言っても、王太子妃の教育はこちらから勝手に休むわけにはまいりません」
我慢仕切れないようにエリンが口を挟む。ありがちな、異世界召喚の展開。アメリアは悪役令嬢役?とてもそうは見えない。あくまでも、主人公目線から見たご都合主義の役割分担なのだ。
金色の目が不穏に光ってこちらに向けられる。妹さんを邪険にしたの、わたしじゃないんだけど?
「トワ、一度保護した以上、お前はアンフィス家の預かりとする。望むことはあるか」
急に言われても、と思いながら、なぜかフォスという名前の竜の方をみてしまう。目が合うと、わずかに首を傾げる様子で、励まされたような気持ちになった。
「ここで生きていかなければならないのなら、いずれ近いうちには自分で働いて生活したいですけど。まずは、学ばせてください。この世界のことやこの国のことを」
「よし。アメリア、お前はトワにこの家の預かりとして生活していくのに必要なことを教えろ。そのほかは、好きに図書室を使えばいい。王家には伝令を出す。本来ならば国で預かるべき客人を我が家の竜が保護したため、その世話でしばらく妹は王宮に出仕できないと」
お兄ちゃん、お怒りですね。
ありがたいですけど。アメリアと目が合い、深い緑色の目が和んで微笑んだ。望ましくない状況だろうに。
「よろしくお願いします」
「兄が人の、それも女性の世話を買って出るなんて後にも先にもこれきりでしょうから。喜んでお受けしますわ」
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