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1 順応しましょう
お出かけしよう 1
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チャイムの音に応じて、栞里はヴィルを残して店舗の方に小走りで行く。配達員は、この家が人が出てくるのに時間がかかるのを承知してくれているけれど、やはり待たせるのもなぁと小走りになる癖がついていて。だから、出て来ないで待っててね、と言われたヴィルの顔を、栞里は見ていなかった。
こんなに早く届くとは、便利なもんだなぁ、と、昨晩注文したヴィルのシャツがもう届いたことに驚きながら、戻りは普通に歩いて戻る。
玄関を開けて顔を上げた栞里はぎょっとして立ちすくんだ。なんとも言えないほどに憔悴した顔で、ヴィルが玄関を上がってすぐのところに立ち尽くしていたから。
「ヴィル?どうしたの?顔色が」
「シオリ…急にいなくなるからびっくりした」
ようやく焦点があったような目で栞里をじっと見つめる。
ヴィルにしても、自分があれほど動揺するとは思わなかった。なぜ、栞里がここから出るなと言って急に出て行ってしまったのか、皆目見当がつかなかった。何か、音がしたのはわかったけれど。
危険だから出てくるなと言われたのか。それとも、誰か呼び込もうとしているのか。そんな、理屈に沿った考えだって、後付けだ。あの瞬間。ただ、置いて行かれるというその一点に、あり得ないほどに動揺した。
手の指先に血が通っていないかのように冷えてしまっているのがわかる。
本当は、ちゃんと栞里が戻ってきたのか確かめたいが、そんなことをしたらきっと、怯えさせてしまう。こんな少女に。
「あの、ヴィルが外に出られるように頼んだ服が届いたの。だから取りに行ったんだけど。説明が足りなかったね、ごめん」
覗き込む顔はそう言いながらも困惑が深い。たまらず伸ばした手で、ヴィルは栞里の手首あたりにそっと触れながら、そこにいることをそれで確認して行く。やっと、心臓がちゃんと動いて血が通ったような気がする。
「すまん。こんなに動揺して…どうしようもないな。君のような少女に知らない間に頼りきっているらしい」
「…えっと、とりあえずリビングに行こう。あの、今さらだけど、ヴィル、わたしのこといくつくらいに見えてるの?ヴィルは何歳?」
尻尾と耳は動揺したせいか、また見えるようになっている。それがあまりにもしょぼくれていて、栞里はひたすら申し訳ない気持ちばかりが募るのだが。
「俺は24歳だ。栞里は…幼く見えるが、ずいぶんしっかりしているから15歳くらいにはなっているのか?」
思わず、まじまじとヴィルの顔を見上げ、あー、そうか、と思い浮かべること。日本人は、幼く見えるらしい、と。
「20歳だよ。成人してる。だから色々、気にしないで」
「20歳?」
驚きに目を見開くのをしっかりと見ながら、ため息をついて、栞里はリビングのソファで届いた包みを開け始める。その間も、今までになくヴィルの距離が近い。ここにきて、栞里しか知らないのだ。その姿が見えなくなったことで随分と動揺させてしまったらしい。
「その。1人で住んでいるようだが。夫とか、子供とか…俺はここに世話になっていて大丈夫なのか?」
「ああ、結婚が早い文化なのね。わたしはまだ学生。だからそういう心配はないよ。それこそヴィルは?心配している家族とか、恋人とか、奥さんとか、いるんじゃないの?」
聞いた途端、ヴィルの目が昏くなる。一番気にしているのは本人だろうからと触れずにきたが、話題的に今だと聞いてしまったが。やはり触れずに最後までおくべきだったか。
でも口から出てしまったものは取り返せない。沈黙がいたたまれなくて、昨晩なんとなくスマホで検索していたら出てきた言葉についても聞いてみる。まあ、創作の話だから、これで現実と一致していたらちょっとすごいな、と思うけれど。
「番、て文化はあるの?わたしたちのところの物語に獣人が出てくると、時々…ううん、よく出てくるの。運命的な相手って」
「番か」
お、反応があった、と思う。
が、表情は変わらない。
「俺には番はいない。家族もいない。心配は…部下や使用人たちが、しているかもな」
「部下や、使用人がいるお家の人なのね」
引っ張り出したシャツを広げる。うん、大きい。
これなら着られるだろう。
「そういう人たちに心配されるってヴィルはいい上司で、いいご主人なんだね」
「え?」
「ん?」
栞里の何気ない感想のような言葉に、ヴィルは呆けたように目をあげる。その反応にきょとんとしたまま、栞里は手にしたシャツを差し出した。
「とりあえず、これに着替えてみて?」
ものすごく安い、シンプルなシャツだったはずなのに。
ヴィルが着るとカッコよく着こなしているように見えるのだから、素材ってすごいなぁ、と感動しながら、栞里は立ち上がった。
「耳と尻尾、出ちゃってるからまた見えないようにしてね?買い物に行こう」
ヴィルは先ほどの栞里の言葉に、不思議なほどに心が軽くなっているのに。それを口にした栞里があまりに変わらなくて。
ただ言われるままに、今度は栞里と一緒に、家から出た。
こんなに早く届くとは、便利なもんだなぁ、と、昨晩注文したヴィルのシャツがもう届いたことに驚きながら、戻りは普通に歩いて戻る。
玄関を開けて顔を上げた栞里はぎょっとして立ちすくんだ。なんとも言えないほどに憔悴した顔で、ヴィルが玄関を上がってすぐのところに立ち尽くしていたから。
「ヴィル?どうしたの?顔色が」
「シオリ…急にいなくなるからびっくりした」
ようやく焦点があったような目で栞里をじっと見つめる。
ヴィルにしても、自分があれほど動揺するとは思わなかった。なぜ、栞里がここから出るなと言って急に出て行ってしまったのか、皆目見当がつかなかった。何か、音がしたのはわかったけれど。
危険だから出てくるなと言われたのか。それとも、誰か呼び込もうとしているのか。そんな、理屈に沿った考えだって、後付けだ。あの瞬間。ただ、置いて行かれるというその一点に、あり得ないほどに動揺した。
手の指先に血が通っていないかのように冷えてしまっているのがわかる。
本当は、ちゃんと栞里が戻ってきたのか確かめたいが、そんなことをしたらきっと、怯えさせてしまう。こんな少女に。
「あの、ヴィルが外に出られるように頼んだ服が届いたの。だから取りに行ったんだけど。説明が足りなかったね、ごめん」
覗き込む顔はそう言いながらも困惑が深い。たまらず伸ばした手で、ヴィルは栞里の手首あたりにそっと触れながら、そこにいることをそれで確認して行く。やっと、心臓がちゃんと動いて血が通ったような気がする。
「すまん。こんなに動揺して…どうしようもないな。君のような少女に知らない間に頼りきっているらしい」
「…えっと、とりあえずリビングに行こう。あの、今さらだけど、ヴィル、わたしのこといくつくらいに見えてるの?ヴィルは何歳?」
尻尾と耳は動揺したせいか、また見えるようになっている。それがあまりにもしょぼくれていて、栞里はひたすら申し訳ない気持ちばかりが募るのだが。
「俺は24歳だ。栞里は…幼く見えるが、ずいぶんしっかりしているから15歳くらいにはなっているのか?」
思わず、まじまじとヴィルの顔を見上げ、あー、そうか、と思い浮かべること。日本人は、幼く見えるらしい、と。
「20歳だよ。成人してる。だから色々、気にしないで」
「20歳?」
驚きに目を見開くのをしっかりと見ながら、ため息をついて、栞里はリビングのソファで届いた包みを開け始める。その間も、今までになくヴィルの距離が近い。ここにきて、栞里しか知らないのだ。その姿が見えなくなったことで随分と動揺させてしまったらしい。
「その。1人で住んでいるようだが。夫とか、子供とか…俺はここに世話になっていて大丈夫なのか?」
「ああ、結婚が早い文化なのね。わたしはまだ学生。だからそういう心配はないよ。それこそヴィルは?心配している家族とか、恋人とか、奥さんとか、いるんじゃないの?」
聞いた途端、ヴィルの目が昏くなる。一番気にしているのは本人だろうからと触れずにきたが、話題的に今だと聞いてしまったが。やはり触れずに最後までおくべきだったか。
でも口から出てしまったものは取り返せない。沈黙がいたたまれなくて、昨晩なんとなくスマホで検索していたら出てきた言葉についても聞いてみる。まあ、創作の話だから、これで現実と一致していたらちょっとすごいな、と思うけれど。
「番、て文化はあるの?わたしたちのところの物語に獣人が出てくると、時々…ううん、よく出てくるの。運命的な相手って」
「番か」
お、反応があった、と思う。
が、表情は変わらない。
「俺には番はいない。家族もいない。心配は…部下や使用人たちが、しているかもな」
「部下や、使用人がいるお家の人なのね」
引っ張り出したシャツを広げる。うん、大きい。
これなら着られるだろう。
「そういう人たちに心配されるってヴィルはいい上司で、いいご主人なんだね」
「え?」
「ん?」
栞里の何気ない感想のような言葉に、ヴィルは呆けたように目をあげる。その反応にきょとんとしたまま、栞里は手にしたシャツを差し出した。
「とりあえず、これに着替えてみて?」
ものすごく安い、シンプルなシャツだったはずなのに。
ヴィルが着るとカッコよく着こなしているように見えるのだから、素材ってすごいなぁ、と感動しながら、栞里は立ち上がった。
「耳と尻尾、出ちゃってるからまた見えないようにしてね?買い物に行こう」
ヴィルは先ほどの栞里の言葉に、不思議なほどに心が軽くなっているのに。それを口にした栞里があまりに変わらなくて。
ただ言われるままに、今度は栞里と一緒に、家から出た。
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