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月が満ちる頃。

コツリ、コツリと古い洋館へと鳴り響く靴の音。

蔦が絡まり合う気味の悪いドアを臆する事なく開く。

開いたすぐ側には小さな黒猫が出迎えてくれた。

「にゃあ~」

足に頭を擦り付け、短いしっぽを揺らす。甘えてくるその子猫を抱き上げ頭にキスをする。



「ねえハリエット、こんなに懐かれると猫も悪くないわね」

「そうでしょう、そうでしょう」

いつもクールなハリエットも猫の前では完全にとろけ顔だ。

首を撫でると「きゅうっ」と鳴く。やーん可愛い☆とハリエットとキャピキャピはしゃいでいた。


「これはこれは、イヴリンお嬢様でしたか」

振り向くと、黒いローブを羽織った一人の老婆がニタリと笑い立っていた。

気味の悪い空気を纏い、静かにこちらへと足を運ぶ。

ゴクリと喉がなる


「エスメ…」

「お嬢様」

「エスメ」

「お嬢様」

二人はゆっくりと距離を縮めた。

「エスメー!」「お嬢さまー!」

そしてダッシュで完全に距離を縮め、抱き合った。

「お久しぶりですっお嬢さまっ」

「元気にしていた?!エスメ」

「元気に決まっております!まだ180歳!現役ですぞっ!まだまだ亡くなったローラ様に変わってイヴリンお嬢様を守らねばなりませぬ!」

実は、亡くなった私の母ローラは魔女と人間のハーフだ。
お母様のお母様、ようは私のお祖母様が魔女で、伯爵家のお祖父様と大恋愛をしたのち、お母様が産まれたのだ。

もちろんお祖母様が魔女という事は、お祖父様もお父様も知っている。

そのお祖母様は、魔女の中でも最高位の魔女で、何人かの配下のうち、エスメとエスメの弟子のハリエットを私と母の側においた。
そう!ハリエットも魔女なのです☆お給金を出すお父様贔屓だけれども。

お母様には少しだけ魔力があったけれど、私には魔力を感じる程度の霊感的な能力しかなかった。それをお祖母様が心配してくださったのだ。

ちなみにお祖母様もお祖父様も、少し離れた領地で元気に暮らしている。
かなり歳の離れた姉さん女房だけど、二人並ぶと違和感のないお二人なの!お祖母様はとてもお美しい方だからね。

「ねえ、そろそろ玄関のチャイム直したら?勝手に入るの悪いな~っていつも思うのよ?うちの使用人に頼んでおこうか??」

「あえて直さんのですよ。たま~におるんですわい、命知らずの営業マンとやらが。ピンポンピンポンうるさいのなんの」

「あらあら本当に命知らずねえ。

まあとにかく、この子をそろそろ元の姿に戻してくれるかしら。マイラ、よね?この子」

そう言って、ハリエットが抱いている黒猫を指差した。

「ふぉふぉふぉ、バレておりましたか」

「エスメ様、あえて質の悪い魔法をかけましたね。そのせいで、どの魔女が犯人かと難航しました」

「質の悪い魔法?ハリエット、全くお前はまだまだじゃのう。あのタイミングで魅了が溶けねば、本当にお嬢様が悪者になり国外追放になってしまう。婚約破棄さえされれば、良かったのであろう?」



私とハリエットは目を合わせ、ため息をついた。












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