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「まあ、初めましてアイリス様。私は第3妃のリーシャ・カルダンと申します」

長い睫毛を伏せ、優雅にお辞儀をする。真っ赤な唇が少しこわい。

「…アイリス・フローリアです。初めまして」

「なんてお可愛らしいのかしら。お肌なんてツルツルで羨ましいですわ」

ニコニコとこれまた嘘っぽい笑顔を絶やさないリーシャ。

はぁ、と心の中でため息をつくサミィ。いずれは来ますよね、この展開…。と、このタイミングにアイリス様と庭散歩に来てしまったことを悔やんだ。

「そういえばアイリス様、殿下にはお会いになられまして?
お噂では半月も会えずじまいだったとか…お可哀想なアイリス様…私が初めて後宮に上がった日は、その日の夜にはお渡りになりましたのに…殿下ったら」

後ろに控えるサミィは始まった!と冷や汗を垂らす。

ふふっとアイリスを見下ろし、真っ赤な唇をつり上げる。
アイリスはというと、きょろきょろしたり、顔をしかめてくんくんしている。

「なっ何か?」

「臭いのです」

「えっ?」

くんくんと動物のように匂いをかぎながら、リーシャに近付いていく。
派手な柄の、ぶわりと広がるドレスの近くまでくると、これだと言ったようにアイリスは言った。

「臭いのです!」

「は?」

「お鼻がもげてしまいます!」

「ぷっ」

ぷっと、どこからか笑いを我慢するような音が聞こえた気がした。だがそれどころではない。

鼻を両手で押さえ、上目遣いでリーシャに批難するアイリス。

こそっとリーシャ付きの侍女が、リーシャに耳打ちする。「もしかすると香水かもしれません」と。

カアッと顔を赤くしながらも、さすがは貴族。引きつりながらもまだ笑顔を絶やさない。

サミィはどうしたものかと心の中でオロオロする。
そこそこ大人の、側室同士のバトルの方がまだマシだ。勝手にやって、勝手に発散してくれる。
だが今その側室の相手は6歳の少女。しかも位はその少女こそが誰よりも上だからだ。

そして何よりも、うちの可愛いアイリス様に何ケンカ売ってくれてんだ。という怒りもあり冷静に判断できずにいる。

「こっ…この香りの良さが分からないでいらっしゃるなんて…とっても高級な香水ですのよ?
ですから殿下もアイリス様の事を、放って置かれてしまうのですわ。良ければ、大人の淑女としての振る舞いを教えて差し上げましょうか?」

リーシャのコメカミには青筋が。顔は笑っているが今にもアイリスに飛び付きそうな勢いだ。
後ろで控えていたサミィは、ヤバイよヤバイよと額に手を当てる。

「その前にリーシャ様、アイリスもひとつ教えて差し上げます。その恐ろしいお化粧と、どぎつい香水をおやめになれば、殿下のお渡りも今より増えると思いますよ」

「なっ…なんですって!?」


「これよりアイリスは、このお国の歴史のお勉強があるので失礼致します」

ペコリと可愛らしくお辞儀をして、その場を去る6歳の少女。

「ちょっ…まっ…」

リーシャはこの国に渡り、王子の気を引く為に美しく着飾る事しか考えてこなかった。
勉強?そんなのやる位なら、パックしたままエクササイズをした方が何百倍も為になるわっ!と思ったからだ。

まあ、歴史の授業があると言ったのは本当なので、"そこは"アイリスからすると嫌みでもなんでもなかった。


「あんのクソガキ…マジでいつかしばくっっっ!!!!」



その日、広く美しい庭園に、リーシャ(16歳)のドスの効いた声が響き渡った。


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