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「初めまして。君の婚約者のエレン・ナンバートです。これからよろしくね」

アイリスの手をとり、ちゅっとキスをする。
目の前には、ニコニコと嘘っぽい笑顔を向けるアイリスの婚約者がいた。

「初めまして。アイリス・フローリアです。よろしくお願いします」

ぺこっとお辞儀をして挨拶をする。ここへ来て半月目。この日、初めての顔合わせをした。というより、ばったり城の廊下で会ったのだ。

「早く顔合わせをしておきたかったんだけど、今立て込んでいてね…こんな形での挨拶になってすまないアイリス」

隣国とは言えど、ナンバート国に渡るには数日はかかり、まだ6歳の少女は親元を離れたばかり。こちらに着いて、半月も王子に放って置かれた事に、多くの者は同情した。

だが当の本人は、そんなのどうでも良かった。

「いえ、大丈夫です」

サミィ?サミィはどこ?早くお部屋に戻って侍女のみんなと遊びたいんだけど。
サミィはアイリスの少し離れた隅の方で、頭を下げたまま待機している。

ちらっとエレン殿下の顔を見る。微笑みを浮かべているが、こちらの様子をじっと見られているような落ちつかない気持ちになる。

「殿下、そろそろ…」

「ああ、そうだね。アイリス、何か困った事はない?」

「ありません」

「…そう。それではまたゆっくりお茶でもしよう。
そうだ、この国の特産物は果実酒が有名なんだけど、サキュアと言った果物のジュースも、とても美味しいから飲んでみて」

「はい」

そう言って、側近のソーノと共にその場を離れていった。

ちなみにこの国に辿り着いた日には、優しい侍女達がそのサキュア100%ジュースを出してくれた。甘酸っぱい味が疲れた小さな身体を癒した。
今では1日1サキュアだ。
なのでアイリスは今更その情報?という気持ちになった。

「ふぅっ、疲れちゃった。戻ろう?サミィ」

たたっとサミィの元へ走り、サミィの足に両手で抱きつく。

「ふふ、走っては危ないですよ、アイリス様」


まだまだ子供のアイリスには、王子に取り入ったり、女を見せる事はない。
ただただホームシックだった為、一番近くで優しく甘えさせてくれる、サミィを初めとした侍女達にとにかく懐いた。

だから正直、王子だとか婚約だとかはピンとこない。
どうでも良かったのだ。


「ねえサミィ?サキュアのお話したら飲みたくなっちゃった」

「あら、アイリス様。朝食の後に、すでに1サキュアされておりましたよ~?」



ああ~ん、サミィのいじわるーと、二人の仲の良い笑い声が廊下に響いた。


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