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第一王子のキャロットケーキ

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「初めまして、ホワイトタヌキのニナです。少しの間、お世話になります」

ぺこりと頭を下げた相手は、王子のお兄さん。
そう、この国の第一王子だ。

王子の部屋でのんびりゴロゴロしていると、城の庭でお茶でもどうかな?と声をかけてもらったのだ。

初めは緊張していたけど、出会った瞬間に分かった。この人は優しい人だって。

「こんにちは。私の名前はロイズ・ミラードだ。ニナ、甘いものは好きかな?」

「はい、好きです。だいたい何でも食べます」

でもまだまだ緊張しているオレ。ぎこちない敬語になってしまう。
王子は王子だけど、第一王子の事は殿下って呼んだ方がいいよな。

「これ、食べてみて」

と、にこやかにケーキを取り分けてくれる。

こんな事、殿下にさせちゃってるけど大丈夫?と困り顔のオレは王子を見た。

優しく微笑んで頷く王子。い、いいのかな?

真っ白な陶器の皿に、オレンジ色のクリームがたっぷりとコーティングされているケーキ。

頂きますと言って、ぱくりとひとくち。

「!」

オレは目をまんまるにして殿下の顔を見た。
殿下もオレの顔真似をして、目をまんまるにする。

「美味しい?」

と聞かれ、コクコクと頷き返した。

「とっても美味しいです!」

「このケーキはうちのシェフが作ってくれる中でも一番好きなケーキなんだ。ルイも好きだよね?」

「そうですね。甘さ控え目で食べやすいですし、城に戻って来ると食べたくなります」

だよねだよね、と王子の皿にもケーキを取り分ける殿下。仲の良い兄弟だなぁ。

そして殿下もなかなかのイケメンだ。王子とはまた違ったタイプだけど。殿下は爽やか代表だな。

「ニナ、いつか私にもホワイトタヌキの姿をした君を見せてくれるかい?」

え?殿下ホワイトタヌキ見たいの?
そうなの?全然お安い御用だよ!

「んむむ!」(獣化!)

ポンッ!


「みゃーん」



殿下がオレ(ホワイトタヌキ)を見てピタリと止まった。
オレは椅子の上で、ちょこんとお座りをしたまま、モフモフしっぽをぱたりぱたりと揺らす。

殿下どうしたの?どうぞ?どうぞお触りください?

殿下の目を見る。あっ殿下の目の色も菫色っぽい。
王子より少し紫色が強いかな。王子はもう少し柔らかい菫色だから。

「なっなんて…あっ愛らしいんだ。こんなのが敵国にいたら我が国は敗戦する…!」

可愛すぎるは兵器だー!と頭を抱え崩れ落ちる殿下。

え…。さっきまでの爽やかな殿下は?オレ、さすがに引いちゃうよ?

…もう、仕方ないなあ。

ピョンと椅子から飛び降り、頭を抱えて伏せる殿下の元で腹を見せてコロンする。
そしてうるうる目で殿下がこちらを見るのを待つ。

チラッと殿下がこちらを見る。

「ツツッ!!!」

(ねえ殿下)

「ツツツツツッッッ!!!」

(早くモフモフしてくれよ)

「うわぁーーっっ!!!」

とオレに跳びかかる勢いで、オレを優しくモフモフする。あっ殿下!

ペロペロ。

口元にクリームついてたよ。


「…ルイ…私の完敗だよ。これは仕方ない。仕方ない可愛さだ…。なんだ…もう色々…好きにしなさい。お前には苦労をかけているからなぁ…父上の事も私に任せなさい」

「はい、兄上。ありがとうございます」

(?)

急に燃え尽きた殿下と、にこやかな王子。


「ルイ殿下、失礼致します」

(あっアティカス…)

何だか顔が険しい。

「只今、メイドのアンナ・エバンズが到着致しました」




え…?






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