閉鎖都市

世界は安全で隔離されている

─５─

『仕方しかたないよ。
   初めてのケースだけど 』

無論むろん、金属製のお供ともは、
ピッピッピッと鳴いているだけなのだが。

少女は仕切りに相あいづちをうっていた。

『問題ないと思う。
　大丈夫だいじょうぷ。 心配しんぱいないよ』

それはまるでペットと会話しているようだ。

いやペットの場合は感情があるが、
少女が話しているのは無機質むきしつなロボットで、
無機物むきぶつと会話している。

『大丈夫だいじょうぶ。 警戒けいかいしすぎ。
  　それより始まる 』

その言葉を最後にロボは口をつぐむ。

口と言うものがあればだが。

とにかく音を発はっしなくなった。

『意地悪いじわる』

少女も一言ひとことそう発はっすると黙だまりこんだ。

時間だけが永ながく感じられた。

完全に話しかける機きを逃していた。

たが黙ったままなのも間がもたない。

僕はおずおずと少女に話しかけて見た。


「あの～ごめん。

 　いやごめんって言うかなんか、
 　質問とかない・・・  ですか？ 」

少女は一瞬こちらを一瞥いちべつすると、
またすぐに窓の方に向き直っていた。


「あの、怒ってる？
 　本当にごめん・・・なさい。
 　そんなつもりはなかったと言うか・・・
　 不可抗力ふかこうりょくと言うか・・・

 　本当、たまたまなんだよ 」

再ふたたび重い沈黙ちんもくが場を包む。

まるでそれが答えと言うように。


「本当ごめん。
　こんなつもりじゃなかったんだ」


つもりじゃ・・・


「あっ！ 僕はソウヤ」

「アスカ・ソウヤって言うんだけど」
　
　
少女は困こまった様ように僕を見ると、
シーと僕の口元に指を押し当てた。


ディープブルーの瞳が、|
深海《しんかい》の奥底で揺ゆらめく
燐炎りんかの様な光沢こうたくを放はなっていた。

意外にもそこからは、
警戒の色は見てとれなかった。

気まずく静まりかえった室内に、
羽音の様な地鳴じなりだけがこだましていた。



　　　　　　　　─５─