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キミとふたり、ときはの恋。【第四話】

いざよう月に、ただ想うこと【5−9】

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 前方を無言で歩く煌先輩。一見、だるそうに歩いてるように見えるのに、どこか獰猛な獣のような隙のない雰囲気も漂わせてる不思議な後ろ姿を見ながら、その広い背中に好みの軍服を妄想であてがってみた。
 上着の色は、プルシアンブルーがいいかな? いえいえ。野性味と色気が混在してる煌先輩だから、紺青《こんじょう》色よりも漆黒のほうが似合うわ。漆黒の地に、赤のラインと金モールが入ったデザインに、同色のマントとブーツ。これよっ。
 うんうん。高身長で肩幅が広い煌先輩には、これが一番似合う。
 クロアチアの軍服もカッコいいデザインなんだけど、あそこのはクリムゾンレッドなのよねぇ。煌先輩にクリムゾンレッドは、キャラ的に少し合わない気がするから却下よ。残念だけど。
 そういえば、私の知ってるバスケ部男子で、クリムゾンレッドが似合う人、ふたりいるけど……。
「……あら? ねぇ萌々ちゃん? その企画、煌先輩がバスケ部の代表で参加ってことだけど。代表さんは、煌先輩だけなの? 他のバスケ部員さんたちは、皆さん応援?」
「おやおや? 涼香ちゃん、私の予想以上にバッチリ食いついてるじゃないですかぁ。気持ちがアガってきてる証拠ですねっ。いいことですー。ということで、極秘の美味しい情報を追加でお教えしましょう。特別企画には、もうひとり、部員が参加するらしいんですが、誰だと思います? ヒントは、高等科一年生!」
「えっ、高一っ? だだっ、誰っ? もしかしてっ?」
 軍服さんがもうひとり、しかも高一の部員だと聞いて、さらに色めき立った。

 もう、前のめりよっ。実際には萌々ちゃんとは横並びだから、気持ちだけの前のめりだけど。
「あ、ちなみに土岐くんじゃありませんよ? 一瞬でも期待させちゃったなら、ごめんね?」
「うっ……わ、わかってるわよぅ。私の『もしかしてっ?』は、別の人のことだったのよ?」
 奏人なわけない。さすがに、それはわかる。
 もし奏人が代表に選ばれてたら、私には教えてくれるはずだもの。おばあちゃんとお母さんの影響で、私が軍服萌えなのを奏人は知ってるんだから。
 ……ん? でも、それならなぜ、煌先輩が軍服企画の代表さんになったことを教えてくれなかったのかしら? 同じバスケ部なんだから、奏人は当然そのことを知ってるはずなのに……。
「涼香ちゃん? じゃあ、もうひとりの代表の名前、当ててみてください」
「……え? あ、うん。私、当てる自信あるわよ?」
 クリクリッとした、邪気のない萌々ちゃんの瞳に見上げられ、頭をよぎった疑問は、いったん横に置いておくことにして笑ってみせた。

 きっと忙しいからだ。学園祭の実行委員は本当に多忙だから、普段なら細かいところにまで神経が行き届く奏人も、バスケ部の話題にまで頭が回らないに違いない。
 最近の奏人との会話の少なさがずっと会えてない理由に繋がり、カフェテリアの光景にそのまま意識が行きそうになるのを無理やり留《とど》めて笑顔を作った。
 せっかく萌々ちゃんが楽しい話題を提供してくれてるんだから、あれを思い出しちゃ駄目だ。
「じゃあ、当てていい? 代表さんは、常陸くん!」
「ああぁ、一発で当てちゃうの、ずるいです。涼香ちゃん!」
「当たった? やったぁ!」
 ほら、萌々ちゃんとこうしてたら、自然と気分が上向きになってくる。大丈夫、大丈夫。このまま、お喋りに熱中してたら、きっと大丈夫……。


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