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キミとふたり、ときはの恋。【第四話】
いざよう月に、ただ想うこと【4−5】
しおりを挟む「髪、伸びたね」
「んっ」
襟元を元に戻すついでに緩く編んだ三つ編みに指を滑らせ、そのまま首筋をするりと撫でてきた奏人の指の感触に、ふるっと身が震えた。
同時に、自分でもびっくりするくらいの甘い声も出た。
「ん? 今の、感じたの?」
「あ、違っ。今のは、ち、が……っ」
奏人のからかうような声色に、慌てて「違う」と言いかけたけど。ほんとに『違う』わけじゃないから、言葉が途中でしぼんでいく。
「ごめん。意地悪、言った。わざわざ指摘されるのは恥ずかしいって前にも言われたのに、涼香が可愛いから、つい。俺がそうさせたのに、ごめん」
優しい謝罪の言葉とともに頬に軽いキスをくれる奏人の輪郭は、もうすっかり夕闇に飲まれてしまった木立の中で、黒い影のよう。
きっともう、帰る時間だ。
そう、物寂しく思った直後、遠くからゆったりとした美しいピアノの旋律が聞こえてきた。裏門から直結している城址公園で、毎日夕方の五時と六時に流れるメロディーだ。
学校と隣り合わせということで、私たち生徒にその時刻を知らせてくれている。
今流れているのは、六時を知らせる、ショパンの『別れの曲』。ちなみに五時は、バイオリンの旋律が心に染みる、ドビュッシーの『美しい夕暮れ』だ。
「……帰ろうか」
「うん」
照明が届かない木立の中から、中庭へと手を繋いで出ていく。暗がりでは見えなかった奏人が私を見る表情が、照明の中で徐々に浮かび上がる。
「あ……ふふっ」
明るい通路に足を踏み入れ、そこで見上げた奏人の顔は、『きっとこんな表情《かお》してるはず』と私が思っていた通りの、甘い甘い笑みで。
普段は無表情なことが多い奏人のその笑みが堪らなく嬉しかった私は、繋いでいた手を引いて身を寄せ、心のままに伝えていた。
「ねぇ? 大好きっ」
「涼香?」
私にとっては、ごく自然な流れでの告白だったけれど、奏人には唐突なものでしかなかったんだろう。目を見開いて、戸惑いの表情が向けられてきた。
「あぁ……うん」
でも、それはほんの一瞬で。
「俺も大好きだよ」
すぐに、同じ気持ちを返してくれた。一層、甘みを増した、蕩けるような笑みで。
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