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中庭にて

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 部活に行く前の武田慎吾くんを、中庭に呼び出すことに成功した。

 サラサラの茶髪に、整った顔立ち。でも冷たい印象なんか全然なくて、やや垂れ気味の目は、いつも人懐っこい笑顔をたたえてる。明るくて優しい、バスケ部の人気者だ。

 でも、彼女は居ない。もちろん、リサーチ済だもんね。頑張って告白して、今度こそOKもらうんだぁ。

「武田くん、好きです! 私とつき合ってください!」

「……あー。俺を呼び出したの、花村ちゃんだったのかぁ。でも、わりぃ! 俺、君とはつき合えないよ」

「そんなっ! お試しでもいいの。それで駄目なら諦めるから!」

「いや、もうすぐ大会あるし。ケガとか、マジで困るし……」

「ケガ?」

「花村ちゃん、すげぇ可愛いし。正直、俺、気持ちグラグラ揺れまくりなんだけどさ。でも無理っ。君だけは対象外なんだよ。ごめんな。ほんと、ごめん!」

 ぎゅっと目を瞑りながら深々と頭を下げられ、困惑でいっぱい。

「ええっ? 可愛いって思ってくれてるなら、つき合ってくれてもいいじゃない。お試しでいいんだから!」

「勘弁してくれよぅ。俺、試合に出たいんだよ」

 困りきった様子で小さく呟く相手の言うことが、よくわからない。

 こんなの、納得出来るわけない。

「わけわかんない。ケガとか、試合に出たいとか。それ、私とつき合うのと何の関係があるの? 私、武田くんのこと、真剣に好きなのよ? ちゃんと答えてくれなきゃ諦めらんない!」

「うーん、なら言うけどさぁ。花村ちゃん、中学の時に痴漢を片手で投げ飛ばしたことあったろ?」

「え? なんで、そのこと知って……」

「そのエピソード、校内で知らないヤツはいないくらい有名だよ。んで、男子の間で共有してる警告文があってさ。『花村ましろは、見た目は超可愛いけど、力加減のわからない“怪力マウンテン女子”だから要注意』っていうのなんだけど」

「ま、まう……」

 何? 何を言われたの?

 怪力? まうんてん? マウンテンって、もしかして……まさかの……。

 ゴ、ゴリ……ゴリ、ラ?

「花村ちゃんに投げ飛ばされた痴漢、全身打撲に腰椎骨折、手首の粉砕骨折だったらしいじゃん? だから、花村とつき合ったら身体がいくつあっても足りないって噂が、男子連中の間では有名なんだよ」

 ぼうっとした視界の中で、武田くんの喉がゴクリと動いたのを見た。

「もし、もしもさ! 俺たちがめでたくつき合ったとしてさ! ……そ、その! 俺たちが深い関係になった時のことを想像しただけで、すっげ怖ぇーんだよ! 俺の大事なあの部分とかを、もしも握り潰され……あわわ! とっ、とにかく、おつき合いは勘弁してくださいぃぃっ!」

 武田くんが早口で何かいっぱい喋ってるけど、何のことを言ってるのかよく理解出来ない。

「じゃあ、俺、部活だから、これで失礼しまっす! ほんと、ごめん。申し訳ない! 心から謝ります。ごめんなーっ!」

 あれ? 武田くん、走って行っちゃった。

 えーと。今、何て言われたんだっけ?

 ……あ、そうだ。怪力マウンテン女だ。怪力……マウンテン……ゴ、ゴリ……。

「……ふっ、ううっ……うぅっ」

 ひ、酷いよ。

「うっ……ふ、ぅ……さやかぁ」

 胸が痛い。

 否応なく込み上げてくる熱いもので、喉の奥が苦しい。

「さやかぁ」

 滲んだ視界に、大好きな親友の優しい笑みだけが浮かび上がってくる。

 さやか……さやか、さやか!

「さやかっ……!」

 涙を拭わずに、そのまま走り出した。


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