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からくれないに、色づいて #6

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 逃がさないよう、両手で頬を固定してる俺に抗議するかのように、背中側の裾がつんっと引っ張られた。

 前髪をそっとかき上げ、額に口づけて、なだめる。

「キス、途中だったろ? あそこで。だから、ちょっと続きするだけだ。これくらい、いいだろ?」

「あ、あれも、私まだ許してないんやからね。礼拝堂であんな真似するなんてっ……」

 んだよ。『あれも』ってことは、今のキスにも物申してんのかよ。

「あ? 礼拝堂のこと、まだ怒ってんの? あそこだったからこそ、構わねぇじゃん」

 身をよじって俺のキスから逃れようとする肢体を囲い込み、目を合わせて言い聞かせる。

「お前、ちゃんとわかってる? 俺ら、婚約者だぞ。で、あそこは礼拝堂だ。だから、あれは俺らにとっては誓いのキスだ。何の問題もない」

「そんな、いい加減なっ……んっ」

 抗議の声を飲み込むように、唇を密に触れ合わせて塞ぐ。

「もう、集中して? これも、誓いのキスだから」

「ん……馬鹿っ」

 真っ直ぐ求める心を隠さずに囁きを落とせば、初琉の声が甘いものに変わった。小さな手が、受け入れるように背中に回ったことに気を良くした俺は、場所を移動することにした。

 キスしたまま腰を支え、軽く浮かせた肢体をベッドまでいざなう。

「零央? えと、あの……」

 隣同士に座らせたところで戸惑いの声がかかったが、また唇を合わせて、その後の言葉を封じる。

「ちょっとだけ延長、な? いいだろ? 補充させて? お前を」

 もう、どんな抗議もきかない。

 そうはっきりと知らしめるように、深く口づける。実際、初琉が足りなかった。このひと月、ずっと渇いてた。

「ん、ふ……んっ」

「初琉、会いたかった」

 この表情を。俺を見上げるこの瞳を、目に映したかった。

「……っ、零央……れ、おっ」

 この声が聞きたかった。この息遣いを、感じたかった。俺の腕の中で、名を呼ばせたかった。

 熱を、息遣いを。この温かく、柔らかな感触を。お前が纏う、鮮やかな“色”を。ただ、求めていた。

 こんな風に、全身でお前を感じたかったんだ。

「あ……零央?」

 ワンピースの背中側に手を伸ばし、ファスナーに指をかけると、不安そうに見上げてくる瞳と視線がぶつかる。

「零央、何を……」

「ん? 何でしょう」

 笑ってとぼけながら、ファスナーを一気におろし、襟ぐりを開いた。

「あっ、いやっ!」

「見せて、俺にも」

 慌てて身をよじる相手をそっとベッドに倒し、軽いキスを数回。静かになだめる。

「お前が頑張ってきた証だろ? 見せて? 俺にも。ちゃんと見たい」

「でも……でもっ」

「あぁ、これ?」

「綺麗じゃ、ないからっ」

「綺麗だぞ? ほら、こんなに白くて滑らかで――――あたたかい」

 柔らかな膨らみのすぐ上。初琉の小さな手だけでは隠しきれない傷痕が、そこに見える。くすんだピンク色が幾筋かに分かれて伸びている縫合の痕に、そっと唇を這わせた。

「綺麗なわけ、ない……こんなん……全然、綺麗ちゃうもん」

 痕に口づけながら目線を上げれば、震える唇から嗚咽混じりの声が零れ出ている。

 初琉が小学生の時に負ったという、大怪我の手術の痕。抱えている病気と、もうひとつ。初琉が気にしているモノだ。


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