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終
からくれないに、色づいて #1
しおりを挟む『ご乗車ありがとうございました。下りエスカレーターは5号車、6号車の――』
――東京駅。到着した新幹線から途切れることなくホームへと降りてくる乗客たちの中に、ずっと求めていた姿を見つけて弾けるように足が動く。
「初琉っ」
あちこちで流れる場内アナウンスや発車ベルの音量にかき消されないように声を張り上げ、足早に駆け寄った。
ホームを進む人の流れには乗らず、案内板を見上げて首を傾げていた初琉が俺の姿をみとめ、大きく瞳を見開く。
「……零央? どうしたん? 待ち合わせは、改札口やったでしょ?」
真正面まで駆け寄ってみれば、ひと月ぶりの再会の第一声は俺の望む言葉じゃなかった。戸惑いの表情で、ごく当たり前の問いかけ。
んだよ、それ。ひと言めは『会いたかった』じゃねぇのかよ。会いたかったのは、俺だけか? この日を楽しみにしてたのは。
柄にもなく、朝からそわそわと落ち着かない思いをしてたのは……。
心の狭い俺は、意趣返しと俺得の両方を選択することにする。
「ん? お前、少し丸くなったか? ははーん、正月太りだな? 餅の食いすぎかぁ。どれ、どのくらい増えたか確かめてやろう」
「きゃあっ!」
ホームのど真ん中。キャリーケースを素早く奪い、子どもを高い高いするように抱き上げた。
「ちょっ、おろしてよ! 何するん? だいたい、太ってなんかっ……」
「あぁ、そうだな。俺の勘違いだった。軽すぎるから、このまま抱っこで山手線乗ってもいいな。うん、そうしよう。それがいい」
「えっ? 嘘でしょ? ねぇ、おろして? 零央、お願いっ」
本気で『飯、食ってんのか?』と聞きたくなるくらい軽い肢体を目が合う位置までずらして支え、正面で不敵に笑ってやると、抗議の声が懇願に変わった。
俺の肩で離れようと突っ張っていた手も、逆に、きゅっとコートを掴んでくる。
あぁ。俺、もう限界。
「初琉、会いたかった。朝から、ずっと待ってた。お前は? 違うのか?」
頬に唇を滑らせながら、「会いたかった」と、再び囁きを繰り返す。
この温もりだ。この“色”が、ずっと欲しかった。
「零央……わ、私も。私も同じ、よ? あの、ちゃんと言うから……だから、おろして?」
ひさびさの滑らかな頬の感触を味わう俺の耳に、かすかな囁きが飛び込んでくる。
こんなに密着してるのに不明瞭なその声は、まるで震えているようで。そっとホームにおろすと、手袋を外した初琉の手が俺の頬に触れた。
「ね、冷たいでしょ? 指」
「ん、冷たいな」
「もうすぐ零央に会えるって思ったら、嬉しい反面、すごく緊張して。ずっとこんな風に指が震えてたんよ。だから、新幹線の中でも手袋を嵌めてたの」
頬に触れてきた初琉の手は、ひんやりと冷たく。それを少しでも温めてやろうと、その上に自分の手を重ねた。
「さっき声をかけてくれた時も顔が見られて嬉しかったけど。嬉しいびっくりっていうの? 逆に足が動かなくて……」
さらに、嬉しい言葉を聞かせてくれる声が震えているから、腰を引き寄せて続きを聞いた。
「零央が東京に帰ってからの一ヶ月、ずっと寂しかった。電話で話せるのは嬉しかったけど、切った後はその何倍も寂しかった。零央……会いたかったっ」
「ん、俺もだ。俺たち、一緒だな」
これ以上は、言葉にならない。電話ではいつも素っ気ない言葉が大半の初琉の本音が、嬉しすぎて。
取りあえず、乗客の皆さんの注目を浴びてることに初琉が気づく前に、移動するとしよう。
もう一度、頬にキスを落としてから。
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(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
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2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
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