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秋祭りの夜 #13
しおりを挟む「あぁ、良かった……居てくれた。良かっ……たぁ」
「初琉っ? おい! 初琉!」
俺を見て安心したように笑ったものの、再び目を閉じた初琉に慌てていると、十束が俺の腕を掴んできた。ぐっと、力を入れて握り込まれる。
「君も乗りなさい。すみません。もう一名、同乗します」
最初は俺に。後の言葉は、ドアを閉めようとしていた消防隊員に向けられた。
え? 俺も?
「何してる。早く乗れ。発車出来ないだろう!」
「お、おう」
いくぶん苛ついた口調の十束に急かされ、その横に空いている狭いスペースに急いで乗り込む。すぐにドアが閉められた。
車内では、既に別の隊員が血圧を計測していた。赤い光を出している洗濯バサミのような器具を初琉の指先に挟んだところで、十束が動いた。
隊員に許可を得てから計測値を確認。俺にはわからない単語を使ったやり取りが行われ、また隣に戻ってくる。
狭い座席に男ふたり、身体を密着させて座っているんだが、互いに口を噤んだままだ。十束の全身からピリピリしたものが発せられている。
車内も緊迫感に包まれているため、声を発することは躊躇われる。けれど、どうしても気になることがある俺は我慢しきれずに尋ねてしまっていた。ごくごく、小さな声で。
「なぁ。お前が初琉の主治医って、どういう……」
「君に話す必要はない。が、病院に着けば、おのずと明らかになることだ」
「……っ」
俺の問いを途中でさえぎった冷淡な口調の主は、答えることを拒否。そうして、腕組みをしながら身体をずらし、俺との間にほんの少しの隙間を作る。もう、口を開く気はないとでもいうように。
そこに、もうすぐ到着すると隊員から声がかかった。
十束に問いかけながらも、目線は一時も外さなかった初琉に、さらに強く視線を送る。
初琉、もうすぐだ。もうすぐ病院に着くぞ。
なぁ? 俺さ、お前のことが知りたいんだよ。
十束は、病院に着けば、おのずと明らかになることだと言ったけど。お前、俺がそこに踏み込むことを許してくれるか?
初琉……お前には、いったい何がある?
以前も心中で問いかけたことがある言葉を絞り出すように繰り返した時、救急車が停止。サイレンも止まった。
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