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3 ケルベロスとオルトロス

#4

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 はあぁ、どうしよう。いっちゃんの呟きのせいで、身体が熱い。

 幼なじみのチカを大事に思ってくれてるから出た発言だってわかってるけど、それでも好きな人の口から大切にされてると聞かされるのは、嬉しくて堪らない。

 おんぶされてるから恥ずかしくても逃げ出せないし、むしろ、もっとくっついて聞いていたい。

「さぁて、では秋田くん。次は、君が知りたいことに移ろうか。僕と宮城先生が、なぜ知り合ったのか。コレ、聞きたいんじゃないかな?」

「……っ、はい! そうですっ」

 なんで、わかったんだろう。そう思ったけど、その通りとだけ返事した。

 すぐに答えを聞かせてもらいたかったから。

「実はねぇ、藤沢先生からの紹介なんだ。僕、宮城先生の次回作のための取材に協力してるんだよ」

「次回作……それで慶太くんが……」

 なんだ。そうか。慶太くんのところでの『打ち合わせ』って、そういうことか。

「僕、細胞診さいぼうしん専門医の資格を持っててね。ちょうど宮城先生の次回作のテーマに合うってことで、藤沢先生から協力要請がきて、彼の病院で一度打ち合わせしたんだよ」

「細胞診、専門医? いっちゃん。もしかして医療ものにジャンル転向するの? それで、伊織さんに取材を?」

 びっくりだ。ラノベの宮城けいが、まさかのお堅い医療もの作家になるの?

「あ? んなワケねぇだろ。将来のことはわかんねぇけど、今は書いてて楽しくねぇ分野には欠片も興味ねぇな」

「あ、うん……だよね」

 そうだよね。

 いっちゃん。どこからどう見ても不機嫌そうなしかめっ面や仏頂面しといて、内心ウキウキで美少女ファンタジーやバトルラブコメを書いちゃうお人だもん。

 ソコが魅力なのに、表情そのまんまのシブい医療系ヒューマンドラマを書くのは、チカもやめてほしいよ。

「えーと。じゃあ、その取材してるっていう新作のテーマ、差し支えなければ教えてもらっていい?」

「別にいいぞ。あー、ザックリ言うとだな。
『ある日突然、細胞の声が聞こえるようになった、モブよりも平凡な細胞検査士がいる病院に、分子レベルでの地球征服を目論む地球外生命体が女医として潜り込んできて、地球の平和をめぐる攻防だとは知らずに細胞検査室で反発しあったり意気投合したりするうちに、実はふたりは前世でも同じパターンの恋人同士だったということが細胞の声で判明してしまい……』っつー流れの、よくあるバトルラブコメだ」

 待って。

 ちょっと待って、いっちゃん! イロイロ、突っ込みどころ満載なんだけど?

 どこにも、『よくあるパターン』なんかないよ?

 そもそも、フツーのラノベに『細胞検査士』なんか出てこないし。

 『分子レベルでの地球征服を目論む地球外生命体』も、なかなか現れない。

 いいの?

 それでいいの? 出版社さん。

 宮城京はよくても、そんなんで商業展開的に大丈夫なの? 出版社さん!


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