11 / 18
3 ケルベロスとオルトロス
#3
しおりを挟む「ねぇ、いっちゃん!」
尋ねたいことが、一気に噴き出してきた。
「いっちゃんは知ってたの? 伊織さんのメスが模造品って。それに隠し持ってる場所とか知ってるくらい仲良しなの? あと、伊織さんとの打ち合わせって何? それに慶太くんが関わってるのは、なんでなのか、チカ知りた……」
「チカ。少し、待て。先に俺とコイツが話をつけるから。お前は、その後だ」
そして、それを矢継ぎ早に質問するも、またもやトントンとあやされ、なだめられて『待て』をされてしまう。
うぅぅっ。いっちゃんてば、ひどいよ。
だって、だって……!
トントンのついでに、クイッと抱え直された時。「チャラドクターとの話にケリがつけば、その後はもう俺の時間は全部お前のモンだから、今はおとなしくいい子にしてろ」って、振り向いて囁くんだもん。
大好きな色めいた声で、「ふっ」て笑いながらそんなコトを囁かれたら、チカはチョロいから、即キュンときちゃうじゃん。
そんで、素直(馬鹿)だから、しっかりと口閉じて、おとなしくしちゃうに決まってるじゃん。
『待て』の命令を全力でお利口に守っちゃうじゃん!
もう、ほんとずるいぃ……。
「オラ、さっさと話つけんぞ。チャラドクター。何がどうして『チカの細胞』云々の流れになった? あ?」
「うふふん。やっと僕の出番かぁ。じゃあ、宮城先生の質問に先にお答えしようかな。で、親切な僕が、その後に秋田くんの質問にも答えてあげるねっ」
スチャっと人差し指を立てて左右に振った笑顔の伊織さんが、壁にもたれかけていた身体を真っ直ぐに起こした。
「実はねぇ。僕、昨夜、藤沢先生と飲んでたんだよ」
そして、思わせぶりにニヤリと笑ってから、おもむろに語り出すのを、息を詰めて聞く体勢に入る。藤沢先生――――チカが種明かしを聞きたかった慶太くんの名前がここで出てきたことに、バンバン興味を引かれながら。
「んで、藤沢先生がその時にね。『俺の知り合いには各部門の最強が揃ってるんですけど、その中でも一番の最強は、幼なじみのチカちゃんなんすよ。めっちゃ天使で可愛いのに俺を片手で持ち上げられるくらいの力持ちだし。武道の達人だし。チカちゃん、本気のマジで、純粋な最強なんすっ♪』って情報を教えてくれるもんだからぁ。ついつい、どんな『マジで純粋な最強』なのか、一度会って確かめたくなったんだよねぇ」
慶太くん、飲み会でそんなコトを……。
というか、なんで酔っ払って喋る話題がチカ……?
「チッ。スピーカーは慶太だったか。アイツめ、余計な情報をベラベラと漏らしやがって」
おんぶされてるという密着体勢のせいで、壱琉の低い呟きが、またまたしっかりと聞こえてきた。
舌打ちしてイラついてる様子が自分のためなんだと分かるから、再び身体が沸騰していく。
「それにねぇ、宮城先生。そーんなオイシい情報を教えてもらったら、是非とも『最強の細胞』を手に入れて調べたくなるものでしょ? 人類の未来を憂うスーパードクターとしては!」
「ケッ。何が、『人類の未来を憂うスーパードクター』だよ。アンタのマッド趣味が、だだ漏れてるだけじゃねぇか」
またもや、壱琉の低い呟きがスタート。
「お前に、チカの細胞は渡さねぇ。ほんのひと欠片も、1ミクロンでも渡してたまるかよ」
「とっとと店から……いや、今後チカに一歩も近づけないようにボコって追い出してやる」
「そんで、余計なこと喋りやがった慶太も、後でシメるっ」
いっちゃん……凶悪なほどにフェロモンたっぷりの美声だからさぁ。しっかりくっきり、全部チカに聞こえてるよ……。
10
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
台風の目はどこだ
あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。
政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。
そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。
✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台
✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました)
✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様
✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様
✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様
✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様
✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。
✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
彼はオレを推しているらしい
まと
BL
クラスのイケメン男子が、なぜか平凡男子のオレに視線を向けてくる。
どうせ絶対に嫌われているのだと思っていたんだけど...?
きっかけは突然の雨。
ほのぼのした世界観が書きたくて。
4話で完結です(執筆済み)
需要がありそうでしたら続編も書いていこうかなと思っておいます(*^^*)
もし良ければコメントお待ちしております。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
どうも俺の新生活が始まるらしい
氷魚彰人
BL
恋人と別れ、酔い潰れた俺。
翌朝目を覚ますと知らない部屋に居て……。
え? 誰この美中年!?
金持ち美中年×社会人青年
某サイトのコンテスト用に書いた話です
文字数縛りがあったので、エロはないです
ごめんなさい
好きな人の婚約者を探しています
迷路を跳ぶ狐
BL
一族から捨てられた、常にネガティブな俺は、狼の王子に拾われた時から、王子に恋をしていた。絶対に叶うはずないし、手を出すつもりもない。完全に諦めていたのに……。口下手乱暴王子×超マイナス思考吸血鬼
*全12話+後日談1話
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる