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武田慎吾の災難

chapter【3−2】

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「うぅ……す、すんませんでしたぁ」
「ん」
 お仕置きから、ようやく解放してもらった武田。今度は、飴とムチよろしく、『痛かったか?』と、グリグリされた箇所を優しく優しーく撫でてもらっている最中だ。
 赤くなった部分を慈愛に満ちた表情ですりすりと撫でられ、涙目をさらに潤ませて奏人を見上げる武田の頬は、ほんのりとピンクに色づいていく。
 身長百八十三センチ、それなりに割れた腹筋を持つ体格の持ち主とはとても思えない、あどけない可愛らしさである。
 はぁぁ……土岐はさぁ、こういうとこが堪んないんだよなぁ。
 マジ、好き。ほんと好き。大、大、大好きっ。
「ところで武田。お前、俺に言ってないこと、まだあるだろ?」
「へ?」
「言え」
「え、何のこと? ……おわっ、うひぇぁおぅ!」
 本気で何を言われているのかわからないお馬鹿さんが間抜け面で首を傾げたところに、突然うなじに手を回した奏人によって引き寄せられ、互いの頬がピタリと密着する。
 そして、不意の密着に、通常の人間には発声不可能な、至極残念な叫び声をあげてしまった武田は、こめかみに当たった奏人の眼鏡のフレームを揺らしながらジタバタと慌てた。

「お前、俺に隠し事するのか? あぁ、そうか。また、ここに仕置きが欲しいのか? そうならそうと、ちゃんとねだってみせろよ。ん? どうなんだ?」
 んぎゃああっ! 耳! 耳に息っ! 吐息ぃっ!
 土岐の唇がくっついてるから、俺の耳に吐息が、たっぷりかかってるんだって!
「んっ……土岐ぃ。俺、それ駄目。くすぐったくて……なんか変、になる、からっ」
「ふっ……だから良いのに。ばかだな、お前は。ほら、もう言う気になったろ? 言え」
「んあっ……だから何のことか、俺っ」
「言えば、楽になれるぞ」
「ぁ、っ」
 あ、やべっ。土岐の声、マジでクるっ!
 がっちりと首をホールドされ、耳元に口づけられて答えを強要されるが、今、武田の脳内は真っ白。
 いや、つい先程イジメられたこめこみを指の腹でクリクリしながら鼓膜を震わせてくる奏人の柔らかな声の艶に、別の場所がビクビクと震えるにまかせるのみ。の、どピンクな状態だった。

「はぁ……全く、お前は」
 瞳を潤ませる以外、何の反応も返さない武田に、奏人の口から溜め息が零れる。
「強情なのか、何も考えてないのか……まぁ、後者か。おい。なら、今からひとつ質問をする。それに答えろ」
「ん? う、うん。何かわかんないけど。わかることなら答えるから聞いてみてくれよ」
 呆れ返った奏人によって妥協案が提示され、それに対する武田の回答は何のこっちゃわからんものだったが、それでいいのか、軽く頷いた奏人が続けて問いを発する。
「じゃあ、聞く。ごまかさずに正直に答えろよ。――お前、今日キウイを食ったか?」
「え……キウ……イ?」
「どうなんだ?」
「……あ」
「食ったんだな?」
「た、たぶん」
「ふぅ……それでか。このばかたれが」
「ごめんなさい……マジ、すんません。で、でもフルーツサンドだったし、ほんの少しだと……あの、俺……」
「慎吾」
「はっ、はいっ!」
 突然、重苦しい口調で下の名前を呼ばれ、飛び跳ねるようにベッドの上で正座した武田が、息を詰めて奏人の次の言葉を待つ。
 やべ、怒らせた。土岐の顔、めっちゃめちゃ怖ぇ。
「ばかやろっ」
「ぶふっ!」
 正座した膝の上に置いていた手首が突然引かれ、武田の頭は再び奏人の胸に飛び込んだ。鼻から。

「このばか! どうして、もっと自分の身体を大事にできないんだ。お前は!」
「ごめ……なさい」
 勢いよく引き寄せられたわりには、ふんわりと包み込むように腕が回され、後頭部を撫でさすってくれる手の優しさに、ぶつかった鼻の痛みが和らいでいく。
 それと同時に、自分の浅はかさに情けなくなって消え入りたい気持ちに苛まれた。
「土岐、ごめん。マジ、ごめん。俺、もう二度とキウイ、食わねーから。本気で、約束しますっ!」
 武田慎吾。腹痛の原因は、キウイアレルギーだった。


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