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Lovers -side Shingo-

愛が止まらない。【4】 #1

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イラスト:香咲まり様





「恨んでもいいよ。むしろ、恨まれたい」

 

 ——梅花の芳しく零れ落つる、如月の夜。朧な円月を背に、悲痛な呟きが漏れる。

山南やまなみさん……山南さんっ」

 それは、恋い慕う人を自らの手で殺めた青年の声。

「彼岸の先で、僕を恨みながら待ってて。僕もすぐにそっちに行くよ。やり残したことは少しだけなんだ。そう長くは待たせないからね」

 この誓いが果たされたのは、三年後。天才剣士として後世まで名が語り継がれる新選組の一番隊・組長は、まだ三年の月日を全力で走り続けなければならないのだ。

 雄々しく激しく、哀しいほどに華々しく——。



——*——*——


 
「うわーんっ、武田くーん! すごく良かった! 熱演だったねぇ!」

「お、おう。サンキュ、兼子」

「武田、お疲れー。良い演技だったよ。ありがとう」

「マジ? 比奈瀬の渾身の脚本を台無しにしないよう頑張った甲斐があるよ。俺こそサンキューっ」

 フィナーレを終えた途端に兼子に抱きつかれ、次に兼子ごと比奈瀬に抱きつかれた。

 男子オンリー演劇同好会・クリスマスチャリティーショー、『新選組異聞・梅華伝』の主役を演じきった俺様も、ふたりと同様に満面の笑顔だ。なんたって、一気に緊張から解き放たれたんだもん。

「おーい、智穂ぉ。なーんで俺より先に武田に抱きついてんだよう。つーか、ねぎらいの抱擁なら俺だけにしとけよ。俺も頑張ったんだぜ。褒めて、褒めてーっ」

 なので、機嫌がすこぶる良い。無事に主役を務め上げたことをねぎらってくれた兼子を引き剥がすために、常陸が俺の頭を鷲掴みしてきたけど、笑顔のまま許すのじゃ。

「もう、雪夜ったら……催促なんてしなくても言うのに。あのね、今日もすごくカッコよかったよ。好き」

「うおう! それが聞きたくて頑張ったんだよー。俺も好きっ」

 主役の俺を差し置いて、常陸と兼子の幼なじみイチャイチャが始まったけど、ピンクオーラに包まれたふたりを生温かい笑みで見守るのじゃ。

 確かに、常陸も熱演だった。最後の同好会活動だから、メンバー全員、一丸となって頑張ったんだ。

 凝り性な比奈瀬が書き上げた分厚い脚本。そこで要求された役どころはすごく難易度の高いものだったけど、やりきった。

「まさか、沖田総司役とは思わなかったけどなぁ」

 そんで、相手役の常陸の役どころが山南敬助ってのもシブすぎだろ、比奈瀬さんよ。

 おまけに、山南さんと総司が新選組をしっちゃかめっちゃかに掻き回すヤンデレコメディーな恋仲って設定、最初の台本読み合わせの時、お茶吹きまくったわ。

 さすが、同人大手の祥徳学園文芸部も一目置く伝説の腐男子、比奈瀬めい。ブレない構想力と演出だったぜ。

 俺ってば、ど真面目でシリアスな人生しか歩んできてないのにさ。ほんと、よく演じきれたと思う。

 袴姿で馬跳び、からのラブイチャ膝枕シーンとかさ。ナニをやらされてんのか、ぜーんぜん意味わからんかったけど! 慎吾ちゃん、マジで頑張ったよ……。


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