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Sweet, more sweet -side Kanato-

『女子力』と『メガネ愛』 #2

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「お前の用件は、わかった。俺も、宇佐美の性格に難があるのは気づいてたよ。今朝の件は知らなかったが。あとは、俺に任せてくれ」

「なんだ、気づいてたのか。なら、頼むよ」

 任せろと請け負った俺に、あからさまにホッとした高階の笑みが向いた。最初に怒鳴り込んできた時の険しい表情の名残は、もうどこにも見当たらない。

「武田って、超絶馬鹿なお人好しじゃん? 生意気な後輩に言われ放題でも苦笑して流しちゃうから、さらに相手が図に乗るってパターンじゃん? で、相手がいなくなってから傷ついた表情かおとか、してんだよ。今さっきもしてたんだよっ。そんなのムカつくからさ。親友のお前が何とかしてやってくれよ」

「親友、か」

「ん? 違うのか? お前ら、高一になってから、前よりも距離近くなってんじゃん。そりゃ幼なじみだし、他のヤツらよりは俺らは仲良しだけどさ。幼なじみの延長のつき合いでも、高校生になってから本物の親友になれるんだってこと。お前ら見てて、俺、納得してたんだけど?」

「そうか……うん、そうだな」

 邪気のない笑みを見せてくる高階に頷きながら、全否定したい衝動を必死で抑えていた。

 本物の親友?

 そんなものになりたいわけじゃない。欲しいのは、それじゃない。

 いや、俺以外に、武田にとってのそのポジションを得るヤツが現れるのも絶対に許さないが。

 だが、小さな頃から近しい間柄のコイツからも親友認定されるほどに、俺と武田ははたから見ても距離を縮められているとも言える。

 もう、『ただの幼なじみ』じゃない。それがわかったのは、嬉しいことだ。

「じゃあ俺、そろそろ教室に戻るわ。いきなり怒鳴りつけて悪かったな」

「いや、大丈夫だ」

 予鈴が鳴ったことで席を立った高階からの謝罪に、気にしてないと首を振った。

 ふんわりキャラを脱ぎ捨ててまで怒鳴り込んできたのは、コイツも武田を大事に思ってくれてる証拠だ。つまり、宇佐美の態度が、よっぽど腹に据えかねるものだったということでもある。

「あ、そうだ。大事なことを言い忘れるとこだった。おい、土岐。あの小動物、もうひとつやらかしてるぞ」

「あ? なんだ」

 まだ何かあるのか。

 立ち去りかけたものの、身体半分だけ捻って振り向いた高階が追加で告げてくる言葉を待った。

「俺らから武田への誕プレTシャツを全力でディスってくれてた。特にメガネ愛Tシャツはケチョンケチョンだったぞ。『部活舐めてんのか。何のアピールだ。気持ち悪い』だってさ」

「……ほう。気持ち悪い、ね。ふふっ。そうか」

 思わず、笑みが漏れ出た。

 『メガネ愛』は気持ち悪いか。まぁ、確かにそうだな。眼鏡をかけていない武田に、眼鏡をかけてる俺からの誕プレが『メガネ愛』の文字入りTシャツとくれば。

 あの頃の俺は、片想いをこじらせまくってた。恋心が重すぎて、確かに気持ち悪いだろう。それは、そうだろう。

 自己アピールがハンパないし。アイツがメガネ愛Tシャツを身につけてる姿を見る度、昏い満足感に浸ってたからな……ふふっ。

「やだ、奏人さん。笑みが怖い。目つきも怖い。まるっきり暗殺者アサシンみたいな顔してるっ」

「馬鹿。からかうな。けど、お前も似たような目、してるぞ」

 自分が浮かべていた笑みが酷薄なものだという自覚は、あった。

 そして、それを指摘してきた高階も、目の前で同じ表情をしている。


 ——にやり

ふたり同時に、笑う。

「なぁ、土岐? 俺らの友情、丸ごとディスってくれた礼をしなくちゃ、だよな? 先輩として」

 男にしておくには惜しいほどの朱い唇が、くっと引き上がった。ひどく愉しげに。

「あぁ。明日の朝、早速行動するか」

 相手は、中三。後輩だ。きつい対処は本意じゃないが、武田を見下し、馬鹿にしてるというなら話は別だ。物事の本質が見えるように導いてやるのも、大事なことだからな。

 慎吾を弄っていいのは、俺だけだ。からかうのも苛めるのも。その後で、盛大に可愛がるのも、な。

 領域外のことに二度と手を出さないよう、きっちりとシメておくとしよう。

 “ 物わかりのいい先輩 ”として。





 ——翌朝。


「ななななっ! なんでっ? なぁんで、みんな揃って文字入りTシャツ着てんだっ? 土岐や宮さままで! まさか今日はTシャツ萌え祭り? そうなのかぁっ? うっひょー!」


 土岐奏人とき かなと(『メガネ愛』Tシャツ着用)。
 高階郁水たかしな いくみ(『ドM』Tシャツ着用)。
 一色基矢いっしき もとや(『さすが俺』Tシャツ着用)。
 常陸雪夜ひたち ゆきや(『夢は石油王」Tシャツ着用)。
 花宮煌はなみや こう(『女子力』Tシャツ・有馬キャプテンの命令で、なぜか着用)。

 文字入りTシャツを着用した五名の先輩方に「自主練の相手をしてやろう」と一斉に囲まれた宇佐美うさみしゅうが、泡を吹く寸前まで青ざめ、ビビりまくっている。

 その周囲で、テンション高く、わけもわからず飛び跳ねて喜んでいる武田慎吾たけだ しんご(『恋するセンシティブ』Tシャツ着用)。


 至極、対照的で。二度と見たくない(モブ部員、談)という伝説的ホラーな光景が、早朝のバスケットアリーナで展開された。





 (ちなみに、その光景をこっそり撮影した勇気ある某部員は、俺様代表・花宮煌と女王様代表・高階郁水にキツーく締められたという後日談アリ)




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