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第一章

武田くんと私【2】

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「ふあぁ、今日の映画もめちゃ面白かったー! なっ、花宮ちゃんっ?」
「です、です! 複雑な伏線が全て回収されたラストには唸りましたねぇ」
「あそこな! 見事だったよなぁ。俺、興奮しちゃって、うっかり声出しちゃいそうになったよ。必死で堪えたけど」
「私もです。一緒ですね」
 知ってますよ。ラストで、思わず、といった風に君が身を乗り出しかけたのは。私、隣に座っていたんですから。
「おおお、同志ぃ! やっぱ、映画は花宮ちゃんと観るのがいっちばん楽しいわ。スピンオフもまた一緒に観ようなっ」
「はい、ぜひ!」
 スピンオフ編の公開は、八ヶ月後。武田くんは、そんなに先の予定の約束を私としてくれる。すごく楽しみだ、という表情で。
 そして、とても気軽に。

 一般的なイベントとしてのクリスマスが終わった年の瀬。大好きな武田慎吾くんとの映画鑑賞タイムが終わった。
 武田くんお勧め、魔法士もののアニメ映画は原作を知らない私でもすんなりお話に入り込めたし、すごく面白かった。
 こういう『二人きりのお出かけ』は、実は何度も経験している。
 ただ、これがいわゆる、デート、にあたるのか。単に、趣味が合う仲間として同行しているだけなのか。判別がつかない。
 わからないなら、聞けば済む話だ。
 けれど、聞くに聞けない内容でもある。『どうして、好きなジャンルの映画が公開されたら、いつも私を誘ってくれるんですか?』という質問は、片想いの相手にはそうそう出来るものじゃない。
 ねぇ、武田くん。私は、君にとって、いったい何なのかな?
 高校の三年間、ずっと同じクラスだった仲間? 大学に進学した今も、同じバスケサークルに所属してるから、きっと『仲間』で合ってるんだろうけど。でも、それだけ?
 今日みたいにプライベートな時間を共有する相手でも、君にとっては『ただの友だち』なの?
 聞きたいけど、聞けない。聞くのが怖い。
 中三の初夏、君にひとめ惚れしてから約五年。ずっと片想いのままだから。

 いつかカレカノになりたいと思いながら、何の進展もないまま、大学一年生がもうすぐ終わる。
 ——私の王子様を、やっと見つけました。私、武田くんに好きになってもらえるように頑張りますから。これから、よろしくお願いします。
 高校の入学式で本人の前ではっきりと宣言したけれど。その後、毎年、バレンタインチョコを「本命チョコです。本気です」と渡してきたけれど。私が恋心を伝える度、武田くんは困ったように笑う。
 私の大好きなお日さまの笑顔をほんの僅か、淡く曇らせて、「ありがとう。嬉しいよ」って言ってくれる。
 でも、それだけ。私の気持ちに応えてくれることはない。「ありがとう」の後、ひどく申し訳なさそうな「ごめんな」が続くから、私こそ告白なんかしちゃってごめんなさい! と逆に謝りたくなる。
 そんな謝罪をしたら人の良い武田くんをさらに困らせることになるから黙ってるけど、内心でめちゃ謝ってる。
 何やってるんだろうって思う。
 告白したいのに、告白することで相手を困らせてる。困らせてごめんなさいと思うのに、私の気持ちは知ってほしい。

 私は、わがままだ。自分勝手、エゴの塊。
 私の知る限り、武田くんに彼女はいない。彼女募集もしていない。だから、武田くんに彼女ができるまでの間なら、何度だって『好き』って言いたい。
 できたら私を選んでもらいたいけど、『好き』を伝えるくらいなら許されるよね、と自分を甘やかしてる。わがままで嫌な子だ。
「花宮ちゃん、どうした?」
 あ……。
「気分悪い? 飯食うのは中止して帰るか? 家まで送ってくよ」
「あっ、いえいえ! 気分はバッチリ良いです! ご飯だって、もーりもり食べられますよ。ささっ、いつものパスタ屋さんに行きましょっ」
 気づけば俯いて考え込んでいた私を心配してくれる相手に、全開の笑みを返した。
 映画を観た後の恒例のコース。武田くんの行きつけのパスタ屋さんへのお誘いは、いくら自己嫌悪に陥っていても断るなんて有り得ない。
 私は、恥ずかしいくらいに強欲だから。
 一分でも一秒でも長く、一緒にいたい。誰よりもたくさん、この人のお日様の笑顔を浴びていたい。
 そう思ってる。願ってる。ただの友だち、なのに……。


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