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キミの背中に、手を伸ばす。

#10

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 土岐が、俺を抱きしめてる。

 これ、夢じゃないよな?

 だって、ちゃんと感じるもん。俺の腰と後頭部に、土岐の手の感触を。

 最初、ふわっと背中に回されたその手はすぐに腰と後頭部に移動して、そのまま強めの密着が持続してる。でも、それはどうして?

「……土、岐?」

 今、自分が置かれてる状況について尋ねたい。けど、突然与えられた好きな相手の温もりに全身が硬直してる。上手く口が動かせない。相手の名前を呼ぶのが、精一杯だ。

 わけ、わかんない。『褒美』って、何? 『俺のため』って、どういうこと?

 よく考えろ、俺。まずは、この体勢についてだ。

 これは、間違いなく抱きしめられてる図。土岐が、俺を。男が男を、だ。

 けどさ、俺は土岐のこと好きだけど、土岐にとっての俺は単なる幼なじみ。バスケ部のチームメイト。友だちでしかない。

 てことは……あ、そっか。

 なんだ。これ、ただの『友だちのハグ』か。

 そっか。そうだよ。俺に、ねぎらいのハグをしてんだよ。

 ねぎらいだから、御礼に欲しいモノを今から言うってことなんじゃね?

 それしか考えらんないよな。なんだ。あっさり解決したわ。すっげ、紛らわしいけど!

 ほんと、紛らわしいよ。俺、めっちゃテンパっちゃって恥ずかしいじゃん。

「……ははっ。土岐ってば、いつからアメリカナイズされちゃってたん? フレンド的ハグ、いきなりでびっくりしちゃっ……あれ?」

「武田っ?」

 この体勢の理由が判明して極度の緊張が解けた俺の身体は、カクンっと膝を折って脱力し、へなへなと床にくずおれてしまった。

「おい、大丈夫か?」

 ありゃ? 変だな。俺がぺたんと床に座り込んでも、土岐の手が離れてない。

 俺の身体を支えながら、同じように屈んだからだ。

 そして、覗き込んでくる顔は変わらずに近い。どういうわけか。

 てかさ、俺、もう駄目。

 さっきハグの謎解きでめちゃ高速で頭使ったし、今も密着が続いてドキドキしてるし。ほんと、色々限界。

 『友情のハグ』とか、マジ勘弁。

 こういうのさ、すげぇつらいんだよ。もう、この触れ合いから解放してほしい。

 よし。もう、言う。はっきり言う!

「武田。もしかしてお前、まだ気づいてな……」

「あー、土岐さぁ。俺ってばピュアなジャパニーズ男子だからさ。こういうボディータッチ風の友情表現には慣れてないんだよ。だからさ、この手……そろそろ離して、くんね……かな?」

 はっきり言うはずが、ちょっと声が震えた。

 けど、床を見ながら頑張って伝えた。俺の背に腕を回し、身体を支えてくれてる相手に。

 これ以上ドキドキして、お前に俺の気持ち感づかれる前に、離れたいんだ。

「武田、俺を見ろ。今すぐに」

「え……」

 真上から落とされた命令。

 大好きな声に言われてしまえば、離れたいと思っているのに、つい素直に従ってしまう。

 そうして見上げた土岐の瞳には、さっきと同じ“色”が浮かんでいた――――昏くて綺麗な黒色が。

「と……」

「もう、黙れ」

 そして、言葉を封じるように、親指が俺の上唇に乗った。

「お前が喋っていい言葉は、ひとつもない。余計なことも何ひとつ考えなくていい」

 ひそやかな声と、上唇をつうっと横に滑っていく指の感覚に、身体が再び固まっていく。

「ただ黙って、一度、頷くだけでいい」

 ぼうっと暗い闇の中で土岐の薄い唇が綺麗につり上がり、妖艶な笑みを俺に落としてきた。

「俺に褒美、くれるだろ?」


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