18 / 87
キミの背中に、手を伸ばす。
#10
しおりを挟む土岐が、俺を抱きしめてる。
これ、夢じゃないよな?
だって、ちゃんと感じるもん。俺の腰と後頭部に、土岐の手の感触を。
最初、ふわっと背中に回されたその手はすぐに腰と後頭部に移動して、そのまま強めの密着が持続してる。でも、それはどうして?
「……土、岐?」
今、自分が置かれてる状況について尋ねたい。けど、突然与えられた好きな相手の温もりに全身が硬直してる。上手く口が動かせない。相手の名前を呼ぶのが、精一杯だ。
わけ、わかんない。『褒美』って、何? 『俺のため』って、どういうこと?
よく考えろ、俺。まずは、この体勢についてだ。
これは、間違いなく抱きしめられてる図。土岐が、俺を。男が男を、だ。
けどさ、俺は土岐のこと好きだけど、土岐にとっての俺は単なる幼なじみ。バスケ部のチームメイト。友だちでしかない。
てことは……あ、そっか。
なんだ。これ、ただの『友だちのハグ』か。
そっか。そうだよ。俺に、ねぎらいのハグをしてんだよ。
ねぎらいだから、御礼に欲しいモノを今から言うってことなんじゃね?
それしか考えらんないよな。なんだ。あっさり解決したわ。すっげ、紛らわしいけど!
ほんと、紛らわしいよ。俺、めっちゃテンパっちゃって恥ずかしいじゃん。
「……ははっ。土岐ってば、いつからアメリカナイズされちゃってたん? フレンド的ハグ、いきなりでびっくりしちゃっ……あれ?」
「武田っ?」
この体勢の理由が判明して極度の緊張が解けた俺の身体は、カクンっと膝を折って脱力し、へなへなと床にくずおれてしまった。
「おい、大丈夫か?」
ありゃ? 変だな。俺がぺたんと床に座り込んでも、土岐の手が離れてない。
俺の身体を支えながら、同じように屈んだからだ。
そして、覗き込んでくる顔は変わらずに近い。どういうわけか。
てかさ、俺、もう駄目。
さっきハグの謎解きでめちゃ高速で頭使ったし、今も密着が続いてドキドキしてるし。ほんと、色々限界。
『友情のハグ』とか、マジ勘弁。
こういうのさ、すげぇつらいんだよ。もう、この触れ合いから解放してほしい。
よし。もう、言う。はっきり言う!
「武田。もしかしてお前、まだ気づいてな……」
「あー、土岐さぁ。俺ってばピュアなジャパニーズ男子だからさ。こういうボディータッチ風の友情表現には慣れてないんだよ。だからさ、この手……そろそろ離して、くんね……かな?」
はっきり言うはずが、ちょっと声が震えた。
けど、床を見ながら頑張って伝えた。俺の背に腕を回し、身体を支えてくれてる相手に。
これ以上ドキドキして、お前に俺の気持ち感づかれる前に、離れたいんだ。
「武田、俺を見ろ。今すぐに」
「え……」
真上から落とされた命令。
大好きな声に言われてしまえば、離れたいと思っているのに、つい素直に従ってしまう。
そうして見上げた土岐の瞳には、さっきと同じ“色”が浮かんでいた――――昏くて綺麗な黒色が。
「と……」
「もう、黙れ」
そして、言葉を封じるように、親指が俺の上唇に乗った。
「お前が喋っていい言葉は、ひとつもない。余計なことも何ひとつ考えなくていい」
ひそやかな声と、上唇をつうっと横に滑っていく指の感覚に、身体が再び固まっていく。
「ただ黙って、一度、頷くだけでいい」
ぼうっと暗い闇の中で土岐の薄い唇が綺麗につり上がり、妖艶な笑みを俺に落としてきた。
「俺に褒美、くれるだろ?」
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
上司に連れられていったオカマバー。唯一の可愛い子がよりにもよって性欲が強い
papporopueeee
BL
契約社員として働いている川崎 翠(かわさき あきら)。
派遣先の上司からミドリと呼ばれている彼は、ある日オカマバーへと連れていかれる。
そこで出会ったのは可憐な容姿を持つ少年ツキ。
無垢な少女然としたツキに惹かれるミドリであったが、
女性との性経験の無いままにツキに入れ込んでいいものか苦悩する。
一方、ツキは性欲の赴くままにアキラへとアプローチをかけるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる