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epilogue
携えるは、ただひとつの愛 【5】
しおりを挟む「あっ、帰ってきた! ルリーシェ、黒の王子が帰ってきたよっ」
自身の祭殿の敷地に入った途端、よく通る声が響いた。
「早く、早く!」
「待って、ノルン。私、そんなに速く走れないっ」
溌剌とした声に続く、高く澄んだ声に自然と笑みが浮かぶ。
声の音調だけでなく、地面を駆ける足音ですら対照的な、ふたり。
「おかえりなさいませ。王子様」
「おかえりっ。黒の王子とロキ!」
「ただいま。ふたりとも戻っていたのだな。食事はもう済ませたのか?」
「いいえ、おふたりのお戻りをお待ちしていました。あの、ご一緒にと、思いまして」
「ロキ! ノルンが作った羊肉のシチュー食べるか? 食べるだろっ? 玉ねぎ、たっぷり入れたから……っぷ!」
「やかましいぞ、小猿。うるさい。シュギル様とお嬢様との会話を邪魔するな」
「邪魔してない! ノルンはロキに話しかけてるんっ……んー! んん!」
「シュギル様、お嬢様。私は今からこの小猿を連れて水汲みに行ってまいります。その間、おふたりで、ごゆっくりお過ごしください。では、後ほど」
「わかった。しかしロキ、『小猿』呼びはやめてやれ。それから、動物のように襟首を掴んで口を塞ぐのも禁止だ。ノルンは、れっきとした少女なのだぞ」
「私には小猿にしか見えないのですが、善処いたします。では行くぞ、小娘」
「……ぷはっ! うん、行く。ロキと行く! 黒の王子とルリーシェ、また後でねーっ」
ロキが手を離したのだろう。トサッと地面に降り立つ音がし、それは即座にこの場から離れていく。跳ねるように。
『小猿』でも『小娘』でも、ノルンにとってはどちらでも構わないのかもしれない。
過日、『表の祭殿』での初対面でロキに厳しい対応をされたノルンだったが、意外にも、それ以来ロキを慕って何かと纏わりついている。
なんでも、『冷たいところが、すごくかっこいい! 好き!』ということ、らしい。
最近の少女の感覚と趣味は、よくわからない。
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