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見えぬものと、見えるもの 【14】
しおりを挟む「愛する者を失い、挙げ句、婚約者だった私が身内にいることで王の不興を買うことを恐れた大臣によって騎士の身分を剥奪され、神殿へと送られた。なりたくてなった神官ではない。ドラシュ王が、全てを奪ったからだ」
ナツメヤシの細かい葉ずれの音に乗った、昏い怨嗟の声。
怒りと悲哀、恨みを吐き出したその声が途切れた後、静まったその場に響いたのは――。
「レイド、早く。邪魔者を早く殺して! 私の子を。カルスを、王にするのよ! あの女の息子なんて、早く殺してしまって! 早く、早くっ! あははははっ!」
ミネア様の、狂った哄笑。
「我が姫の美しい心根を踏みにじり、歪めた者の血を引く子よ。姫の望みのため、その血を流せ!」
甲高い高笑いに乗って、レイドが吠えた。
「シュギル様、上です!」
――キンッ!
濃厚な殺気が込められた最初の一合は、ロキの叫びと同時。真上から来ると勘が告げてきた一撃を、真横に薙ぎはらった。
その反動で、今度は斜めに振りおろされた剣を、身体を半回転させつつ、逆に斜めに跳ね上げる。
跳ね上げた勢いで後ろに飛びすさり、いったん間合いをとった。
――ザッ!
「シュギル様! やはり、加勢を!」
私の前に、ロキが立った。
見えなくとも、剣を繰り出す風圧を察知し、私は戦えている。
そのことで自分で自分に驚いたが、短剣から伝わってくる手が痺れるほどの斬撃の威力には、もっと驚いているのだ。
レイドは、強い。
その強さを目の当たりにし、ロキは私の体力がもたないことを心配したのだろう。
きっとその手には、カルスが持っていた懐剣が握られているに違いない。
いざという時のための毒入り吹き矢も隠し持っているはずだが、それを使わせてくれる隙が、果たしてレイドに生じるのか。
私の働き次第、というところか。
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