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愛情と思慕の狭間で 【14】
しおりを挟む「少量ずつ口にしても良いが、一気に全量を煽るほうを勧めるぞ。理由は、飲めばわかる」
腰まで流れ落ちている、うねる黒髪を揺らし、婉然と微笑まれた女神様の御言葉の意味は、推し量るまでもなく明白だ。
「はい。承知いたしました」
祈りの場に、予めひとつだけ置かれていた杯に、小瓶の中身を全て注いだ。
不思議な色を湛え、杯の中で揺らめく聖水を見つめ、これがもたらす効果を思う。
これは、薬であり、毒でもある。これを飲み干せば、私は『何か』を失ってしまうだろう。
薬の効果は、千差万別。私の身にどのような異変が起こるのかは、飲んでみなければわからない。
ルリーシェへの、ただひとつの愛ゆえに望んだ聖水だが。この色の中には、愛情と希望、そして、ひとすじの恐怖の心も揺らめいている。
緊張しないと言えば、嘘になる。剣を用いないとはいえ、これはある意味、自傷行為に他ならないのだから。
――ルリーシェ。
言い伝え通り、灯火の中でさまざまな色の変化を見せてくれる『虹色の聖水』を手に、ルリーシェの姿を思い浮かべる。
たおやかで、しなやか。凛とした表情で未来を見据えていた、小さな姿。
空の蒼そのままの美しい瞳と、月光の白銀色を持つ長い髪の乙女を、杯の色の変遷の中に映し出した。
何が起きるかわからぬ不安は、揺るぎない決意を以てしても、心に恐怖をはびこらせるものだ。
だが、これにより我が身の一部を損なえば、王位継承権は返上でき、私は神殿の覡となれる。
ルリーシェの身の安全を確保し、生贄ではなくなった彼女との未来を、自らの手で切り開くことができるのだ。
ようやく手にしたこの聖水は、私の身に起こることよりも、彼女を失う恐怖の方が遥かに大きいのだと知らしめてくれてもいる。
例え毒薬であろうが、全てを賭ける価値は充分にある!
「ルリーシェ」
もう、ためらいはしない。君とともに歩む道のため、覚悟を決めよう。
「君との、『明日』のために――」
目を閉じ、一気に聖水を飲み干した。
愛しいルリーシェ。心より望む、愛するひとの姿を思い描きながら。
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