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決意の示し方 【2】
しおりを挟む「ザライアは、いるか」
「申し訳ありません。神殿長は、どなたともお会いすることはできません」
翌朝、神殿へと赴いたが、ザライアとは面会することはできなかった。神託を受けるために、昨夜より奥の祭祀場に籠もっている最中という理由で。
しまった。昨夜、王妃宮からの帰途にここまで来れば良かった。
後悔したが、もう遅い。
「では、ザライアの代わりに、そなたに尋ねる。近日、執り行われる儀式のことについてだ」
神託がおりるまで何日でも籠もり続けると知っている私は、無駄かもしれないことは承知で、応対に出てきた神官に詳細を尋ねてみることにした。
上位の神官である証拠の黒衣を纏っている、この相手。上位の者たちの中ではまだ若いが、王妃宮で行われる神事にザライアの名代としてやって来て取り仕切っている姿を何度も目にしている。
ザライアの名代を務めるほどの者なら、という一縷の願いを込めて相手を真っ直ぐに見た。確か、名は――。
「レイド。生贄は、もう見つかっているのか? それと、儀式が行われるのは、いつだ?」
少しの沈黙が、あった。
「残念ながら、どちらも私からはお答えできかねます」
だが、その沈黙に私が期待を抱く前に、落ち着いた平坦な声色が返ってきた。
「神殿長が御神託を受けて戻られるまで、私どもも詳細は存じ上げないのです。
ただ――」
当初、私はザライアに会えなければ、王宮に取って返し、父上にお目通りを願うつもりでいた。
が、レイドが最後につけ加えた言葉を聞き、自分の宮へと戻ることにする。
やるべきことと、思案せねばならないことが、さらに増えたからだ。
「――ロキ。今日は、午後の兵士の訓練が終われば、その後は何も予定がなかったな?」
「はい、左様でございます」
「では、訓練から戻ったのち、しばし王宮の書庫に籠もる」
「かしこまりました。では、お調べ物の合間に手軽につまめるお食事をお届けいたしましょう」
「あぁ、頼む。手間をかけさせて悪いな」
神殿から戻り、兵舎に向かうための身支度をしながら、夜の予定をロキに告げた。
ロキは、相変わらず理解が早くて助かる。『何の調べ物か』などと余計な会話をせずに済むところも良い。
尋ねられても、私自身、何を調べようとしているのか、はっきり言葉にできるわけではないから余計に、だ。
先程の神官――――レイドが最後に口にした、あの内容を調べるためではあるのだが……。
ザライアが神託を受けて戻るまで生贄や儀式の詳細はわからない、と言った後に、つけ加えられた言葉。
『ただ、神殿長はおっしゃられておいででした。いつの世も、生贄を捧げるだけが神への供物となるわけではないのだ、と。“生贄に値する者が、その生涯を費やして神に仕えることで、生贄の祭祀の代わりとした時代もあったのだ”と』
「『生贄に値する者』か……」
ロキが下がり、誰も居なくなった自室に、ぽつりと零れ落ちた声。噛みしめるような自身のその響きを、どこか遠くに聞いていた。
生贄に値する者。それが、ルリーシェのことを言っているのだろうことくらいは、簡単に察せられる。
が、その真偽と方法を確認せねばならない。早急に。
きっともう、それほど時間は残されていないのだから――。
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