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罪と咎と、償いと 【4】
しおりを挟む「――シュギル様!」
ロキの声が追いかけてくる。
「シュギル様! お待ちください!」
だが、悪いが待たぬ。待てぬのだ。
ロキが私の意を受けた使者を、既に王都へと遣わせたことは知っている。が、その返答を待つよりも自身で神殿へと赴いたほうが早い。どうせ王都には今日戻るつもりだったのだから。
私の馬は、戦闘馬車を引かせるために特に鍛えた脚を持つ。こいつの脚なら、数刻もかけることなく王都に到達できるだろう。
「――ザライア! ザライアは居るかっ!」
神殿の手前で馬を乗り捨て、その足で入口まで駆け出してザライアの姿を探し求めた。
聖なる場だとは承知しているが、澄ましかえった態度など今は無理だ。それほどに、気が急いていた。
「これは、シュギル様。あなた様がこのように騒がしい登場をされるなど、初めてのことでございますね」
「ザライア、話がある」
「奇遇ですね。私もです。――では、こちらへどうぞ」
幾ばくもせぬうちに顔を見せた神殿長に早速に詰め寄れば。騒ぐ私の周囲を取り囲んでいた神官たちがザライアの目配せでさっと離れ、その一団とともに黒衣の老人の後ろに続くこととなった。
ザライアのこの対応。まるで、私がここを訪れることがわかっていたかのような態度が気になる。が、黙して歩む。
神殿の奥。神官以外は、王族ですら立ち入ることを許されていない、聖なる区域へと――。
――空気が、変わった。
分厚い扉を抜け、薄暗い通路に入った途端。肌に触れる空気が、それまでとは一変した。
今まで見知っていた王族用の祭壇室とは、纏う空気が全然違う。
そこに在って、ただ呼吸しているだけで、ちりちりと肌が粟立つような。戦場とはまた違った、神経が研ぎ澄まされるような感覚を覚える。
ここは、『こういう場所』だったのだと、自身の存在とその感覚で実感した。
神に近い場所とは、こういうことなのだ、と。
「シュギル様、こちらへ」
ひたすらに長い通路を抜けた先にある、もうひとつの分厚い扉を傍づきの神官に開けさせたザライアが、その内へと私だけを誘った。
「これは……!」
言葉を失った。
誘われた室内の窓から見えた光景に。
「驚かれましたか? 神殿の奥にこのようなものがあることに」
ザライアが私の反応を目線で確認して尋ねてきた言葉に、素直に頷く。
「あぁ、驚いた。まさかここで農作業が行われているとは、思ってもみなかったからな」
森林で囲われた神殿の奥に、まさかこのように広大な農地が広がっているとは。
「このことは、歴代の王のみが知る秘密でございます。神官と、捕虜から選ばれた者たちが作った食料で自給自足し、尚且つ国家に事ある時のための備蓄を続けております」
「なるほど。そういうことか」
天災による飢饉を見越しての対策が、王でも手が出せないというこの不可侵の領域で実は行われていたということか。
「左様でございます。そして、シュギル様に御覧になっていただきたいものは、もうひとつ――――あちらです。見えますか?」
「……っ!」
見えるか、と尋ねられる前に、既に視界に入れていた。
ザライアが私を促しながら指し示した手の先。そこに――。
「ルリーシェ」
陽射しの中。輝く白銀の髪を揺らし、農地の中を行く少女の姿を。
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