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肆
恋華の、等しく咲き揃う 【二】
しおりを挟む私は知らないことだったけれど、うずら丸は大陸の妖怪で。怪我を負って内裏に現れたのは、大陸で眷族の妖と戦い、敗れて逃げてきたため。
そのことを知った妖猫の頭領、白焔もうずら丸を探し求めて都へと飛来。気配を辿って内裏へと侵入していた。
けれど、子猫妖怪であるうずら丸と違って妖力が強すぎる白焔は、陰陽師が内裏に張った結界に阻まれて私のもとへは辿り着けず。門や庭をうろうろするのみだったという。
その白焔の目撃情報から、主上の近侍である蔵人所の長、頭中将様より妖猫討伐の命令が下された。
蔵人所を代表し、その任に当たったのが、光成お兄様。そして、お兄様の手助けにと陰陽寮から派遣されたのが、あの陰陽生。賀茂真守。
このことは、先日、見舞いに訪れてくださった光成お兄様ご自身からお聞かせいただいた。
うずら丸を抱いて逃げる私をお兄様が追ってこられていたのは、蔵人としての御役目のためだったのだと。
そして、うずら丸を助けるため。
捕獲されたうずら丸は、白焔に伴われて大陸へと帰っていった。
私が初めてうずら丸と出会った時、その身につけられていた酷い怪我。灰炎からうずら丸へと変化した後は目立たなかったから気づけなかったけれど、妖本体につけられた傷は、大陸にある妖猫の里に湧き出る泉の水でなければ癒せないのだという。
「知らなかった。気づけなかったっ」
そんな素振り、うずら丸はいっさい、私に見せていなかったから。ずっと、本体につけられた傷の痛みを我慢しながら、私の傍らに居続けてくれていたなんて。
たくさんお話しして、可愛らしい鳴き声を聞かせてくれていた、あの三月の間。癒えない傷の痛みを陰で堪えていてくれていたなんて。
そうして、私の心を癒やしてくれていたなんて……。
「私、何も気づけなかった。お友だちなのに……何も……なんにも気づけなかったのよっ。友だちのくせに……!」
本当に『許せない』のは、私だ。
私からうずら丸を引き離したあの陰陽生のことを恨み、『許さない』と口にしているけれど、私が最も怒り、憎んでいるのは私自身。
陰陽生への態度は、ただの八つ当たりだ。
あの者は、私に謝罪してくれたのに。陰陽寮に属する者として御役目に忠実に動いた結果とはいえ、私の心を傷つけてしまったと。
さらに、妖に対する誤解と偏見があったことまでも詫びてくれたのに。
自分への怒りの気持ちを持て余し、どこにそれを持っていけばいいかわからない私は、都から見舞いに来てくれる度に酷い態度を取ってしまっている。
「……っ、最低! 私は、最低だっ」
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