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第一話

君と歩く、翡翠の道【5−1】

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「ほぅほぅ、なぁるほどー。涼香ちゃんは、煌兄ちゃんのこと、全っ然、知らなかったんですねぇ。からっきし! ほんの、ひとっ欠片も! 記憶にかすりもしないくらいにっ」
「え? あの、萌々ちゃん? 私、そこまで言ってないけど」
「おい、萌々。何度もトゲのある言い方すんなよ。運動部じゃないなら、知らないヤツがいても別におかしくないだろ」
「だって、彼氏の土岐くんと同じバスケ部なのに、お兄ちゃんのことは知らないんだもん。こんなん、オモロすぎるやん!」
 あ、萌々ちゃん、最後だけ関西弁だ。じゃなくて!
「えぇっ? 煌先輩、バスケ部なのっ?」
 知らなかったっ!

「あっ、きゃっ」
「おっと。気をつけてくれよな、白藤ちゃん」
「あ、驚きすぎて……ごめんなさい」
 あぁ、やっちゃった。武田くんにおんぶしてもらってるの忘れて、思わずのけぞっちゃった。
 結局、煌先輩以外の全員に武田くんにおぶさるように勧められた私は、遠慮しながらも、その背中におさまった。
 これ、恥ずかしい! すごく恥ずかしいのよ?
 でもね? 普段よりも高い位置からの視界が珍しくて、実は気分が良いだなんて、これは誰にも言えないわぁ。たぶん、奏人にも。
 けど、武田くんはリーダーとしての責任感と好意でおんぶしてくれてるんだから、ここはちゃんと謝らないと、よね?
「武田くん。背中に乗せてもらってるのにバタバタ動いちゃって、ほんとごめんなさい」
「いや、落ちないように気をつけてくれればいいんだよ。てゆうかさ、白藤ちゃん。宮さまのこと、驚くポイントがそこなんだな。ある意味、すげぇよ」
「え?」
「ねっ、チカの言った通りでしょ? 武田くん。涼香ちゃんのこういうところが、〝涼香ちゃんらしい〟って、わかった?」
「なぁるほどー。納得だぜ!」
 んん? 何のこと?
「あのね、涼香ちゃん。祥徳学園で花宮煌先輩と言えば、知らない生徒はいないくらいの有名人なんだよ?」
「えっ、そうなの?」
 首を回せる範囲は限られてるけど、限界まで左右に回して、皆の顔を見た。
 教えてくれたチカちゃんはもちろん、高階くん、常陸くん、兼子くんまでが笑って頷いてる!
「宮さまはさ。去年の東京都の優秀選手にも選ばれてるんだぜ! 高校バスケ界では名の知れた、すっげー選手なんだよ。俺、めっちゃ尊敬してんだ!」
 武田くんの興奮が、小刻みに揺れる身体から伝わってくる。
 うわぁ。そんなにすごい選手なんだ!
「知らなかった」
 高校バスケ部も練習の見学はオッケーと聞いてるけど、まだ一度も見に行ってない。もし行ってたら、いくら私でももっと早く気づいたよね?
 もうすぐ予定されてるという、司波くんのチーム、耀光学院との練習試合は応援に行くつもりはしてるけど、普段の練習は、そこに都築さんがいると思うと何となく……行きづらくて……そんなの、気にしすぎだってわかってるけど、二の足を踏んでた。

「ねぇ、煌兄ちゃん。ちょっと質問なんだけど。いつまで一年の私たちと一緒に歩くつもりなの?」
 あ、そういえばそうね。煌先輩は二年生なんだから、二年の班の人たちと一緒に行動するべきだわ。
「あ? いいだろ、別に。つか、そこに残りのメンバーがいるしな」
「え、あの人たち? でも、二人しかいないじゃん」
 あ、ほんとだ。祥徳の体育ジャージは、紺色にオレンジ色のポイントが入ってるのが基本形で、それプラス、サイドラインの色分けで学年が判別出来るようになってる。
 私たち一年はピンクだけど、あの人たちは水色のラインだから、二年生。というか、今、気づいたけど、煌先輩の班のメンバーさん以外にも二年生の先輩たちが周りにちらほら増えてる。確か、先輩たちは私たちよりも5㎞多く歩いてるはず。なのに、もう追いつかれてるんだ。
 すごいなぁ。来年の私、こんな体力あるかな? ちょっと、来年のために身体を鍛えておこうかしら。
「煌兄ちゃん、また適当なこと言ってー。実は、ぼっちなんじゃないのぉ?」
「アホか。俺らの班は、三人なんだよ」
「うわぁ、もっと可哀想なパターン? 煌兄ちゃん、ハブられてんの? 友達いないんだね。可哀想」
「えっ、それ、マジすか? 宮さま! な、なら! おおお、俺と、お友だちから始めてもらえませんかぁっ?」
「ふっ、 笑えねぇジョークだな」
「恐縮っす!」
「ぎゃあっ! 煌兄ちゃんのばか! 武田くんを誘惑するのは、やめてよ!」
 武田くん、萌々ちゃん。何か、話がずれてますわよ?

「涼香っ!」
 あ……。
 すぐ傍で、にぎやかに繰り広げられてる武田くん、萌々ちゃん、煌先輩のやり取り。その会話が、一瞬にしてBGMにでも切り替わったかのよう。
 風に乗って届いてきた、かすかな、だけど大好きな声に、全身の神経がすぐさま反応した。
「……か、かなっ」
 武田くんの肩越しに見える、こちらに向かって走ってくる姿は見間違えようもなくて。唇が震えて、最後まで名前を呼べない。
「あっ、土岐! やっぱ、早ぇなっ」
「あ、ほんと。思ったよりも早かったですね。さすが、土岐くんです」
「えっ? あ、あの、萌々ちゃん? 『思ったよりも』って、どういうこと?」
 私と同じように奏人に気づいたらしい武田くんと萌々ちゃんの会話は、まるで奏人が来ることを知ってたみたいで、訳が分からなかった。
「涼香ちゃんが転んだこと、武田くんが連絡してたんですよ。土岐くんに」
「えぇっ? いつの間に?」
「えーと、煌兄ちゃんが声をかけてきた時?」
 それ、転んですぐ! というか、その時はまだ足を痛めたこと気づいてなかったよ?
「武田くん。えと、ありがとう。あの、でも……奏人も疲れてるのに、その、こんなことで連絡なんて……」
 あぁ、私ったら! 好意で知らせてくれた武田くんに、何言ってるんだろ。でも私のせいで、疲れてるはずの奏人がって思うと……。
「それはさ、本人に聞いてやってくれよ。ほらっ」
 武田くんが『ほらっ』と言ってすぐに、目前まで走ってきていた奏人に向けて、くっと身体の向きを変えた。
「涼香っ、大丈夫っ?」
 正面で立ち止まった奏人と、目が合う。息が上がった汗だくの姿に、胸が締めつけられた。


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