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第一話
君と歩く、翡翠の道【3−6】
しおりを挟む「涼香の顔を見ていたいだけなのに? 駄目なの?」
「そっ、それはっ……でもっ」
わーん! こんな甘えん坊さんみたいな表情するのも、ずるいっ。
「駄目?」
「だっ、駄目……じゃない、ですぅ」
結局、受け入れちゃう自分が、情けないぃ。
「――うーん。こんな感じ、かな?」
指先の感覚で眼鏡のフレームを奏人の耳に乗せたから、顔を近づけて、横からちゃんとフィットしてるのかを確かめた。
すぐ近くで見る奏人の横顔は、変わらずに端麗だけれど。頬骨のラインが、少し変わった気がする。ほんの少し、去年よりシャープになったような……。
こういうのが、〝男の人〟になっていく段階、なのかな?
「ありがとう」
「えっ? う、わぁっ!」
「酷いな。俺、笑ったつもりだけど」
そうよ! いきなり至近距離で笑顔向けられたから、びっくりしちゃったのよ!
まぁ。気ぃ抜いて、横顔を観察してた私が悪いんだけどねっ。
取りあえず、心臓に悪いから、ちょっと離れてもらおう。
「えっ、冷たっ! 奏人、ここ濡れてるっ」
ちょっとだけ下がってもらおうと奏人の肩に触れたら、袖がベッタリと濡れててびっくり! しかも、両袖とも。
「んー? こんなの、すぐに乾くよ」
「でも、かなり濡れてるわよ? もし風邪ひいたら大変」
「わかった。こうすればいいよね?」
「あ……」
私がしつこく食い下がったせいか、小さく笑った奏人が、両方の袖を肩まで捲り上げた。
「う、うん。いいと……思う」
きゃーっ! まともに見られない!
上腕二頭筋っていうの? き、筋肉が盛り上がってるっていうか。逞しいっていうか。
とにかく、目の毒なんだってば!
高校バスケ部の練習に参加するようになった頃から、ずっと筋トレに力を入れてるらしい。たぶん、ひと回りくらいは逞しくなったんじゃないかな?
「ねぇ、涼香。なんで、顔を背けてるの?」
わわわわっ! その腕、伸ばしてこないでぇ! とんでもなくドキドキしちゃってるから、目を逸らしてるんですぅ!
「土ぉ岐ぃっ!」
「うわっ」
「きゃっ!」
ドスンと音がしそうなほどの勢いで、奏人にぶつかってきた誰か。いや、もうわかってるから名前を出そう。
「武田ぁ」
……あ、奏人のほうが先に呼んだ。しかも、お怒りモードだわ、これ。
「土岐ぃ。俺さ、俺さ! もっとここで土岐と遊びたかったのにさ。もう出発とか、ヒドいじゃんか!」
「え……」
もう? うわ、ほんとだわ。
慌てて時計を見たのは私だけ。それで、奏人は残り時間がちゃんとわかってたんだと、今、気づいた。
「武田、離れろ。暑苦しい」
「ふえぇーい。ちぇー」
「きゃっ、武田くんっ? えっ、服は? 体操服はどうしたの?」
奏人の背中に抱きついてた武田くん。どういうわけか、上半身裸の状態だ。
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