14 / 28
5
ひりつく、疵(きず) 【1】
しおりを挟む――日曜、午後六時。
夕陽が姿を消し、通りを走る車のライトと街のネオンが銀杏並木に光を当て始めた頃。
――カラン、カランッ
そわそわと時計を確認した俺に、真鍮製のドアチャイムが澄んだ音色を聞かせてくる。
「いらっしゃいませ。あっ、先輩さん、こんばんは! 幸村さぁーん、先輩さんがいらっしゃいましたよー」
「……声かけありがとう、優里ちゃん。でも、先にお客様をテーブル席にご案内してくれる?」
「はいっ!」
千葉先輩との、あの一夜から約ひと月。もう、季節は晩秋と呼んでも差し支えない頃に差しかかっていた。
「先輩、いらっしゃい」
「おう、お疲れさん。さて、今日は何を食わせてくれるんだ?」
「はい。モンブランは、いかがですか? 丹波の渋皮栗を使ってます。フィナンシェの生地に生クリームもたっぷり乗せてありますよ」
「ん、楽しみだな。じゃあ今日は、コーヒーで頼む」
「かしこまりました」
奥の壁際に設えた、イートイン用の丸テーブルセット。こじんまりとしたそこは長身の先輩には窮屈だろうに、文句も言わずに姿勢良く座って、優里ちゃんがケーキセットを運ぶのを待ってくれている。
実際、窮屈なんだろう。イートイン用だけに、少し小さめの物を選んだんだ。
長い足がテーブルの外にはみ出しているのが、厨房からでも見える。
今日の先輩のコーデは、パールグレーのざっくりニットに黒のスキニー。足元を飾るのは、チャーチのプレーントゥシューズ。ネイビーのチェスターコートは、今は几帳面に畳まれて横の椅子にかけられている。
通勤用のスーツ姿じゃない、普段着の先輩を知るようになったのも、ここひと月の変化のひとつだ。
千葉先輩は、金曜の午後だけでなく、日曜のこの時間にも来店するようになっていた。
いつの間にそうなったのか記憶は定かじゃないんだけど。あの甘い夜以降、休日の夜を俺の家でともに過ごしてる。
こんな風に午後六時に来店して、お勧めケーキを食べながら七時の閉店まで店で過ごす。その後、一緒に夕飯を食べてから俺のマンションに来て、日付が変わる頃に帰っていく、というパターン。
千葉整骨院は、日曜祝日が休診。パティスリーは月曜日が定休日。整骨院とサービス業では休日は合わない。
だけど、ほんの束の間、重なる休日の時間を、こうして訪ねてくれるようになった先輩と過ごすのが当たり前のようになっていた。
本当に、いつの間にか、なんだけど。
13
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
しのぶ想いは夏夜にさざめく
叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。
玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。
世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう?
その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。
『……一回しか言わないから、よく聞けよ』
世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
2番ではダメですか?~腹黒御曹司は恋も仕事もトップじゃなきゃ満足しない~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「俺が必ず、最高の女にしてやる」
姉の結婚式の帰り、偶然出会った上司と一夜を共にした。
姉の結婚相手は私の初恋の人、で。
もう全部、忘れたかったのだ。
翌朝。
いつもはジェントルマンな上司が、プライベートでは俺様なのに驚いた。
それ以上に驚いたのが。
「いつまでも2番でいいのか?」
恋も仕事もどんなに頑張っても、いつも誰かに一歩およばない。
そんな自分が嫌だった。
だから私を最高の女にしてやるという上司の言葉に乗った。
こうして上司による、私改造計画が始まった。
紀藤明日美 24歳
二流飲料メーカー営業事務
努力家でいつも明るい
初恋の人が姉と結婚しても奪いたいなどとは考えず、ふたりの幸せを祈るようないい子
×
富士野準一朗 32歳
二流飲料メーカー営業部長
会社では年下の部下にも敬語で物腰が柔らかく、通称〝ジェントル〟
プライベートでは俺様
大手家電メーカーCEOの次男
一流ではなく二流メーカーに勤めているのは、野心のため
自分の名前がコンプレックス
部長から厳しく指導され、恋も仕事もトップになれるのか!?
食べないとは言ってない
冴月希衣@商業BL販売中
BL
『甘く蕩けて、スイーツ男子』のその後のお話です。
【デロ甘な眼鏡先輩×健気受け】お楽しみくださいませ。
☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆
◆本文、画像の無断転載禁止◆
No reproduction or republication without written permission.
逃げられない罠のように捕まえたい
アキナヌカ
BL
僕は岩崎裕介(いわさき ゆうすけ)には親友がいる、ちょっと特殊な遊びもする親友で西村鈴(にしむら りん)という名前だ。僕はまた鈴が頬を赤く腫らせているので、いつものことだなと思って、そんな鈴から誘われて僕は二人だけで楽しい遊びをする。
★★★このお話はBLです 裕介×鈴です ノンケ攻め 襲い受け リバなし 不定期更新です★★★
小説家になろう、pixiv、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、fujossyにも掲載しています。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる