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悲しい告白 【6】

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「唇、こんなに噛みしめて……痛いんだろ? きついんだろ? なら、いい。お前に無理させてまで、最後までする必要なんてないからな」

「ち、違っ」

 あー! 俺の馬鹿! 先輩に気づかれたじゃないか!

「先輩、違う!」

「真南?」

 ぎゅっと先輩の首にしがみついた。言わなきゃ。引きとめなきゃ。

 ちゃんと言わないと、本当にこの人はやめてしまう。優しい人だから。とてもとても、優しい人だから。

 そんなのは嫌だ!

「俺、すごく気持ちいいんです。先輩の手も唇も、触れる肌も、全部がすごくすごく良くて……あの、俺……こういうことするの初めてで戸惑ってただけで。だけど、どうしてもあなたと続きがしたいから最後までしてほしっ……あっ、んっ」


 どうしても最後までしたいんだ。そう、懸命に言葉を紡げば、言い終わる前に唇が塞がれた。

「ぁ……ふっ……ぅ」

「真南、そんな目で誘惑するな」

 痛みを堪えてるような表情が、俺を見おろしてくる。

 ううん、違う。本当に痛いんだよね?

 心から愛してる女性ひとを諦めるんだもんね。相手の恋を後押しするために、自分の気持ちは告げずに。

 そんな優しすぎるあなただから、俺は……。

「千葉、先輩」

 哀しいくらいに優しい人の頬に、そっと手をあてがう。

「先輩? やめ、ないで? 俺っ、俺っ……」

 俺じゃ、その女性の代わりにはなれないけど。でも、少しくらいの慰めには、なれるはずだからっ……。

「馬鹿だな、お前。そんな風に煽ったら、もうやめてやれないぞ? いいんだな?」

「あっ、あぁっ……んんっ」

 熱い手と唇が、また俺に触れてくれた。





「はっ……んっ」

「真南? きつくないか?」 

「だい、じょ……ぶ。あの、先輩?」

「何だ?」

「……っぁ、んっ……はっ、んんっ……ねぇ、気持ち、い? 先輩、気持ちいい?」

「……っ。おまっ……この、馬鹿やろっ。喘ぎながら、そんなこと聞くなよ。おまけに、なんだ、その目。凶悪的に色っぽいだろっ」

「え、何?」

 なんか言った? 『馬鹿やろ』の後が聞き取れなかった。

「……何でもないっ。ほら、もっとしっかり、しがみつけ。奥まで揺らしてやる。ちゃんとついてこいよ?」

「んぁっ……はっ……はぁ、ぁん」





「真南……真南っ」

「あっ、先輩……はっ……あっ、やぁっ」

 脳天まで突き抜けるような快楽を与えられ、激しい官能に全身を打ち震えさせていても。頭の片隅、ある一点だけは欲情に染まりきってはいない。

 冷めていると言っていい。なけなしの良心が、快感の奔流に飲み込まれつつも抗っている。

 ごめんなさい。ごめんなさい、先輩。

 あなたのつらい気持ちにつけ込んで、ごめんなさい。

 優しさを利用して、ごめんなさい。

 これ以上は、望まないから。姑息な俺を許してとは言わないから。だから、今だけは――。

「真南」

「先輩っ」

 俺だけの、千葉先輩でいて?


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