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俺の天使が世界に見つかる前に【3】
しおりを挟む「うあぁ……!」
普段なら決してしないオーバーリアクションで壱琉が頭を抱えた。珍しい光景に目を丸くするチカの上に、悲痛な呻き声が降る。
「ぐぅ、っ」
なんで、俺は大学生なんだ。なんで、チカより九年も早く生まれた?
なんで、コイツと同い年に……いや、せめて……。
「そうだ。せめて、二、三歳差くらいに生まれていれば、小学生同士の幼馴染として一緒に行事に参加しても問題なかったのに」
「えー? もんだいは、あるよー。同じ学年じゃなかったら、いっしょの行事に参加するのは、むりじゃん。いっちゃん、せいせきゆうしゅうでかしこいんだから、それくらいわかるはずなのにー。変な、いっちゃんっ」
「わかりたくねぇ。わかってるけど、わかりたくねぇから、可愛いツッコミを可愛く入れるのはやめてくれ」
透き通った声音が、壱琉の鼓膜を明るく震わせた。その相手に頭を振り、耳を塞ぐ。美しい黒髪が、チカの眼前ではらりと揺れた。
わかってんだよ。何をどうしたって、俺らの年齢差は埋まらねぇ。が、どうしようもない絶望が、俺に現実逃避をさせるんだ。
お前を本気で愛してるから、おかしな思考に傾く。俺の感情を揺さぶる唯一の存在がお前だから、どうしようもなくお前だけを求めてしまう。
どんなことでも冷静にさくっと、悪く言えば計算高く対処できる俺だが、お前が関わるとIQが一桁にまで下がっちまうんだ。情けないことに。
「お前が適齢期になるまで延々と生殺しの苦行に耐えなきゃなんねぇのは、結構つらいもんがあるんだよ。だから、時間を作って学校までお前を迎えに行ってたし、社会科見学にだって無理やり付いていった。それの何が悪い!」
「ええええぇっ? なんで、そんな綺麗なドヤ顔で、ちっちゃい子みたいにイヤイヤしてるのーっ? えーと、こういう時、なんて言うんだっけ? えーとえーと……あっ、コレだ! いっちゃん、正気にもどってよ!」
知能指数が5程度しかないことを堂々と露呈した美貌の男に、愛らしい天使が縋りつく。
「チカ?」
大好きなお兄さんが壊れてしまったのかと、恐怖と心配で見開かれた鳶色の瞳が潤んでいるのを見て、現実逃避していた壱琉が我に返ることが出来た。
あと数年は続くであろう生殺し我慢大会への苦悩よりも、愛しい天使の笑顔を守らねばという使命感が勝った瞬間だ。
清々しいほどに病んだ愛情が原因でIQがバグった男に、人として最低限の理性がようやく戻ったのだ。
「チカ、わりぃ。考えてもどうしようもねぇことで、ぐるぐるして心配かけた。けど、社会科見学の件は謝らねぇぞ。迎えの件もだ。今後も時間が許す限り、お前と過ごせる機会を俺は逃さない」
「よかったぁ。いつものいっちゃんだ。おかしなイヤイヤをやめてくれて、よかったぁ。自分かってで、きょうあくなお顔の『かっこいいおれさま』にもどってくれて、チカ、ほっとしたよー」
「ん? ちょい待て。俺は今、今後も変わらずに学校まで迎えに来るって宣言したんだぞ。お前、さっき、初等科に立ち入り禁止って言ったろ。それを俺は拒否するって宣言だ。いいのかよ、そこをスルーして」
「いいの。さっき、チカがいっちゃんにおむかえ禁止って言ったの、チカのほんとの気持ちじゃないの。ほんとはおむかえに来てくれるの、すごくうれしいのに、うそついたの。ごめんなさい」
「は? 嘘?」
壱琉としては、どれほどチカに『恥ずかしい存在』と思われても会える時間を自ら減らすことは断固拒否だと言いたかっただけで、それは自分のわがままだと自覚していたから、堂々と病み宣言しつつもチカを宥めるつもりでいた。が、その必要はないと言われ、大いに戸惑う。
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