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俺の天使が世界に見つかる前に【2】
しおりを挟む「いっちゃん、聞いて。あのね、いっちゃんはしばらく初等科に立ち入り禁止でーすっ」
「……何? 立ち入り禁止、だと?」
宮城壱琉は、かつてない衝撃に襲われた。
「当たり前でしょ?」
鳶色の無垢な瞳を、信じられない思いで見返す。
「そんな……まさか、お前……俺に飯を食うなっていうのか?」
ただでさえ、お前が適齢期になるまで、最低でも十年は生殺し状態が続くんだぞ?
「ごはん? なんのこと? チカは、学校に来ちゃだめって言ってるだけだよ」
それだよ、それ。なんで、俺の楽しみを奪うようなことを言うんだ。他ならぬ、お前が。
お前という栄養素を摂取せずに、どうやって生きてゆけと?
「学校までおむかえに来てくれるのはうれしいけど、チカは一人でもバスで帰れるし、いっちゃんは大学のお勉強をちゃんとがんばってよ」
「心配すんな。大学の講義はきっちり受けてる。その上でお前んとこに行ってるんだ。行くっつっても週に二、三回の頻度なんだし、お前が気にすることは何もねぇ。問題無し」
むしろ、お前の『可愛い』を摂取できないほうが俺にとっての大問題だ。本心では毎日でも迎えに行きてぇところだが、面倒な雑事のせいで思うようにいかねぇんだ。
あー、腹たつ!
「えーとね、言いにくいからだまってたけど、いっちゃんはちょっと気にしてほしいんだ。チカが言ってるのは、おむかえのことだけじゃなくてね。いっちゃん、先週の社会科見学にもなぜかいっしょについてきたでしょ? 生徒だけで参加の行事にお兄さんが来るのは、こまるの。やめてほしいの。チカ、ちょっぴりだけど、はずかしい」
「恥ず、かしい? まさか、俺のことが、か? え? 俺、お前にとって恥ずかしい存在ってことか?」
その日一番のショックな言葉が壱琉の頭蓋を震わせた。
それまでの彼の人生で一度も言われたことがないワード、〝恥ずかしい〟。その5文字が巨大化して自分を押し潰しにかかってくる幻覚に膝の力が抜けそうになる。
この日までに積み重ねてきた鼻持ちならない自信過剰エピソードがなければ内股でペッタリと地にくず折れていたかもしれないが、かろうじてそれだけは免れた。
しかし、ショックなことには変わりない。艶麗な容貌は蒼白。黒縁眼鏡の奥で、三白眼が頼りなく揺れまくる。
なぜ、こんなことに? 社会科見学に付いていって、何が悪い? 俺のチカの付き添いだぞ?
お前、運動会で一緒に参加したパン食い競争で一位を取った俺に、二回もほっぺちゅーをしてくれたじゃねぇか。
そのお返しに唇以外の顔中にキスを降らせた俺にドン引きするどころか、ぎゅーってきつく抱きついてくれたじゃねぇか。
あれが嬉しすぎたせいで彼氏面がやめられなくて社会科見学に付いて行ったことは認める。
が、それが原因で俺のことが恥ずかしいって言われるとは……何だ、それ。
心外だぞ!
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