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第一章

おにいさんの苦悩【2】

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『いっちゃん、どうしてそんなこと言うの? チカ、かなしい』

『あ? お前こそ何言ってんだ? お前の一番は俺だろ。その他大勢を、この俺と同列にすんな』 

『そんなことしてないもん。いっちゃん、変だよ。わけわかんないっ』

『わけわかんねぇのは、お前だ。ちゃんと言い聞かせてやっから、今から俺んちに来い』

『行かない。チカ、お友だちとやくそくしてるの。それにチカ悪くないもん。言い聞かせてもらわなくていい!』

『だから! その〝友だちとの約束〟を俺より優先すんなっつってんだよ! いいから来い!』

『やだ。はなして! いっちゃんのバカ!』

『痛っ!』

『バカバカ! お友だちとのやくそくは、大事なんだよ? そんなこともわかんないいっちゃんなんか知らない! もうチカに話しかけないで! うわーんっ!』

『あっ、待てコラ! おい、チカ!』


 小学三年生に友人との正しい付き合い方について諭された高校三年生の幼稚な嫉妬。

 チカが『自分より同級生を選んだ』ことを受け入れられなくて、苛つき任せに抱き上げた途端、膝蹴りを鳩尾にぶち込まれるという反撃を受けた。

 そこでようやく、相手を本気で怒らせたことを認識したが、時すでに遅し。

 謝罪するタイミングを失ったまま、一週間が経ってしまった。つまり、この一週間ずっと、壱琉は悶々し続けている。

「俺もそれなりに反省したけど、すんなり許してもらうにはタイミングを計らねぇと。ただ、そろそろ潤いと癒しも欲しいしなぁ。あー、チカが足りねぇ」

 どう謝るか、どうやって話しかけるかの悩みと、一週間に及ぶ愛する者との絶縁状態によるイライラが壱琉の中で撹拌され、膨張していく。

「よし。今日、会いに行く。タイミングはアイツの顔見てから計ればいい。で、サクッと謝って、そのまま拉致る。なんやかんや言ってても、チカが一番好きなのは俺だからな。謝っちまえば、こっちのもんだろ」

 そして、爆散した。

 悶々とイライラが限界値を超えたことで、あっさりと吹っ切れた壱琉は跳ねるように立ち上がり、身支度を始めた。

「ふっ。それに、よく考えたら一週間のお預け期間はお互い様ってヤツだったわ。アイツもぜってー、『いっちゃん不足』になってる。話しかけて無視される心配してたけど、そんな可能性ゼロじゃね? 俺を視界に入れるなり、泣いて抱きついてくんじゃね? そうしたら優しく抱きしめて、涙を吸い取りがてら、顔中にキスのシャワーを降らせてやればいい。それがいい。それでいい」

 年齢差に加えて、同性同士だという禁断をまるっと棚に上げて、相手には自分しかいないと言い切るところが清々しいほどに俺様思考。そして、堂々と病んでいる。

「さて、行くか。ちょうどいいことに、今日から短縮授業だ。初等科で出待ちしてやる」

 今日から短縮授業なのは、卒業を控えた三年生の学年末試験が来週から始まるからなのだが、壱琉にとっての最優先事項は〝初等科での出待ち〟。

 非のうちどころのない整った容姿を有しているのに、その凶悪な内面のせいで、チカの同級生たちから『すごくキレイでカッコいいけど、黙ってても笑ってても怖いお兄さん』と評されている宮城壱琉(高三)は、勇んで自邸を出た。

 普段は、『だりぃ。めんどくせぇ。勝手にやってろ』の三つのワードで会話を成立させてしまう傍若無人な省エネ主義なのだが、珍しく勇んで。

 ただ、朝陽を浴びた秀麗な容貌は生来の仏頂面のため、彼の内心の気合は誰にも気取られない。

「待ってろ、チカ。ぜってー、捕まえる。待ってろ、俺。颯爽と攫った後は離さない。一週間ぶん抱きしめて、スーハーして抱きしめて、抱きしめる」

 九歳離れた幼なじみ、秋田正親まさちか(小三)への歪んだ愛情のせいで語彙がピンク色に低年齢化したフェロモンボイスが、梅花の香りを孕む朝風に紛れるのみ。


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