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キミとふたり、ときはの恋。【第三話】
Summer Breeze【2−8】
しおりを挟む――カランッ
氷が、小さな音を立てた。
奏人が作ってくれたティーソーダ。そのグラスの中で、溶けた氷同士がぶつかった音。
ティーソーダにトッピングされたオレンジシャーベットと一緒に溶け出したのかもしれないけど、それを確認することはできない。
なぜなら、私の目線は奏人に縫い止められてるから。少し前から黙ったまま、ひと言も発しない奏人に。
私が「聞いてもらいたいことがある」と切り出した、話の途中。
「千葉に住んでた時に出会った恩人さんのお話をしたいの。あのね、ずっと言いそびれてて、言うのが今頃になっちゃったんだけど……実はね、その恩人さん、煌先輩なの」
ここまで話したところで、口元にたたえていた柔らかな笑みが消え、すーっと無表情に変化していった。
「あ、あの、奏人?」
そのまま無言で見つめてくるから、ついに居たたまれずに声をかけた。
「あの、お話……聞いてくれてる?」
見つめ返した奏人の目。チョコレート色のフレーム越しに見える黒瞳は、冷めた光を放ちながら、私を見下ろしてきていた。
私の表情を窺うかのような、一見、冷ややかな目線。
「うん、聞いてるよ。涼香が千葉に住んでいた時に、花宮先輩と知り合いになって。何かのきっかけと理由があって君の恩人になった、っていうことでしょ?」
けれど、少しの不安をかき立てられるその表情のまま返ってきた言葉は、私が伝えたかったことを理解してくれていたし、声色も優しかった。
「で、俺に『聞いてもらいたいことがある』って言ってたってことは、その経緯と理由について話してくれるってことだよね?」
「そう、そうなのっ。えーと、今から説明するね」
そして、たぶん私が切り出しやすいように促してくれた。だから、すごく緊張してたけど続けることができた。
「あのね、中二の冬のことなんだけど。ある日、着ていた服がひどく濡れちゃったことがあって……すごく困ってた時に助けてくれたのが、煌先輩なの」
「……冬に?」
「そうなの。その時に、煌先輩のおじい様とおばあ様にも、とても親切にしていただいたの。でね、つい最近、花守さんのボランティアで出かけた病院で、偶然、おばあ様に再会することができたのよ。私、すごく嬉しかったっ」
奏人が、私の目を見てじっと話を聞いてくれてる。自分勝手な思い込みかもしれないけど、それだけですごく心強い。
「だから、おばあ様のお見舞いに行きたい。またお会いして、お話ししたいの。――奏人、お願い! 私と一緒に煌先輩のおばあ様のお見舞いに行ってくださいっ」
こんなお願いされても迷惑だし、嫌かもしれない。
けれど、煌先輩から『奏人と一緒に』と言われてなくても、たぶん私は同じお願いをしてた。『冬に、着ていた服がひどく濡れてしまった理由』については、まだはっきりと口にすることができない私からの、これが精いっぱいの奏人への自己開示だったから。
いじめが原因だなんて、言えない。
奏人には……奏人にだけは、知られたくない。
友達だと思ってた相手からいじめられてたなんて。
私にそんな過去があるなんて、奏人には言えない。知られたくない。
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