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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】

立葵に、想いをのせて【8−7】

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「お月様、ほんとに綺麗ねー。今まで満月の時ばかり注目してたけど、上弦の月もこんなに綺麗なのね。こうして池の水面に映る月と両方眺められるから、余計にそう思うのかしら」
「水面に映る月と言えば、平安時代の貴族たちは月を直接見ることはせずに、こんな風に水鏡に映した月のほうを愛でていたらしいよ」
「そうなの? 平安時代の貴族さんたちは、雅な楽しみ方をしてたのねぇ」
 ふたり、露台に腰かけてのお月見。両方のほっぺにチュッてしてくれた後。とーっても優しく笑った奏人は、その後そっと露台におろしてくれて、『今夜は七夕だけど、月見も楽しんでみようか』と、隣に並んで座った。
「浴衣、新調したんだね。去年の朝顔の柄も良く似合ってて可愛かったのに」
「お、覚えててくれたの?」
「もちろん、忘れるわけないよ。でも、この華やかな牡丹柄も良く似合ってる。帯は、梅? 折り返して二色で見せてるところも可愛いよ」
「うんっ。うん、そうなの。牡丹と梅の花なの……嬉しい」
 嬉しい。浴衣、褒めてくれた。帯を折り返して巻いてるのも気づいてくれた。
 何より、去年の浴衣の柄まで覚えててくれた。
 ちゃんと見てくれてる。それを確信させてくれるところ、すごく好き。

「髪型も、可愛いよ。編み込みのシニヨン?
 今度、学校でもやってあげようか。ちょっと後ろ側、よく見せてくれる?」
「え? こ、こう? ……っ、ひゃあっ! かっ、奏人っ?」
「ご馳走さま。可愛いうなじに、ずっと誘われてたから仕方ないよね。キスしただけだから、許してくれる?」
「……っ、『だけ』って!」
 後ろ見せて、って言うから素直に見せたら、うなじにチュッてされて。それで、そのことを『許してくれる?』って聞きながらも、悪びれずに綺麗に微笑んでるこのひとに、なんて答えよう?
「い、いきなりじゃなくてっ。先に了解とってください!」
 この笑みには絶対に勝てない気がするから、こう答えときますぅ。
「それでね、おばあちゃんが色合いが私に似合うって言って選んでくれたのが、この組み合わせなの」
 奏人に浴衣を褒めてもらえたことで、帯についてもウキウキと説明中。
 牡丹柄の浴衣に合わせたのは、濃いピンクの地に小さな白梅が染め抜かれた帯。リバーシブルになっていて、前で斜めに折り返したことで薄いピンクの地と、濃いピンク、両方を一度に楽しめてるところがお気に入りだと力説した。
「ん、その通りだね。涼香の肌の色が際立つ、とても良い見立ての品だと思うよ。良く似合ってて、可愛い」
「あ、ありがと。えっと……嬉しい。あっ、さっきも言ったけど。私、奏人の浴衣の柄、これ、すごく好き。奏人も、とても良く似合ってるよ?」
「ふっ、ありがとう。でも、俺のことを『かっこいい』なんて言うの、涼香くらいだけどね」
 うわぁ……黒地に紺とグレーの縦縞、それに薄いピンクのラインがほどこされたオシャレな浴衣をさらっと着こなしてるくせに、何言っちゃってるのかしら。
 この無自覚さんをどうにかしないといけないわ。でないと――。
「ねぇ、涼香。俺、知りたいことがあるんだけど。答えてくれる?」
 奏人の声色が、不意に変わった。
 表情は変わらずに優しいままだけど、さっきまでとは、どこか雰囲気も違う気がする。何だろ? 『知りたいこと』って。
 でも、尋ねながらそっと絡め直された指から伝わる温もりも優しいままだから、笑って答えた。
「うん、何でも聞いて。なぁに?」
「俺が待ち合わせに遅れてた間。あの人と、何かあった? ――どこか触られたり、した?」
 あの人? 『あの人』って……煌先輩、のこと?


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