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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【7−2】
しおりを挟む……え? 私に聞いてるの?
「せっかくの夏祭り、ぼっちじゃ楽しくないだろ? 一緒に行こうよ」
「あの……私、確かに一人だけど、一人じゃないです」
奏人を待ってるんだもん。
「何この子、おもしれー。一人ホラーごっこでもしてんの? マジうける」
「ギャハハ! そのノリで、俺らとも楽しもうぜ。なっ?」
あれ? お話通じない? というか、なんか身体の距離が縮まってきてない?
やだ、どうしよう! どうしたら……あっ、そうだ!
「あ、私。あっちで待ち合わせしてるんで、もう行きます」
左右から挟み込むようにしてきてる金髪の二人連れ。その間を突っ切って、足早に浮見堂を出た。
こんな端っこにいたら逃げ場がないけど、太鼓橋辺りまで戻っておけば人も多いし、奏人もすぐに見つけてくれるはず。
「またまたぁ。待ちぼうけ食らわされたから、ぼっちで寂しくしてたんじゃねぇの?」
そう思って水上橋を戻る足を早めてるのに、二人ともぴったりと横についてきて離れてくれない。
あぁ、もう! 下駄って、何でこんなに走りにくいの? 小走りすら、ままならない。
「おい、無視すんなよ!」
「きゃっ!」
あと少しで太鼓橋というところで、片方の人にいきなり肩を突き飛ばされて、前によろめいた。
やだ、怖い。
「か、かな……」
「おい、お前ら」
この声……!
「コイツに、何か用?」
「こ、煌、せんぱい」
よろめいた先で肩を支えてくれたのは、煌先輩だった。
どうして? どうして、ここに煌先輩がいるの?
「あの、煌……」
「取りあえず、お前、こっち来い」
煌先輩の顔を見上げたら、肩を支えてくれてた手で押されて、太鼓橋の方角に歩くように促された。
「おい、待てよ!」
「その子は俺らが先に声かけたんだぞ!」
「ああぁ?」
背後であがった怒鳴り声に私の肩がビクッと跳ねた直後、とっても低い声が頭上で聞こえた。
続いて、チッと舌打ちが響いて。髪をかき上げながら振り返った煌先輩が、ふたりに向き直った。
「お前らこそ、見てわかんねーの? コイツの連れが、俺だってこと」
広い背中が、私をかばうように立つ。
「コイツに怖い思いさせたこと反省してねーんなら、今から池ん中でたっぷり頭冷やしてくるか? ああっ?」
いつもよりも低い声とともに、長い足がすっと上がって、水上橋の手すりを思いっきり蹴りつけた。
「や、俺ら、そんなつもりは全然っ」
「すいません!」
「ふん。おい、行くぞ」
言うだけ言って、サッと身体の向きを変えた煌先輩に連れられて、参道まで戻った。
煌先輩の身長が高すぎて、ふたりの表情は私からは見えなかったけど、きっと反省してくれてたよね? でも、こ、怖かっ……。
「怖かったか? もう大丈夫だから泣くな」
横を向いたまま、ハンカチが差し出された。
あ……ちょっとだけ涙ぐんじゃったこと、気づいてくれてたの?
「ありがと、ございます。でもあの、ハンカチ持ってるので」
御礼だけ言って、自分のハンカチが入ってる巾着バッグを慌てて開けた。
「土岐は? 何でお前、ひとりでいんの?」
目元のメイクが落ちないように気をつけて涙をそっと拭いてると、正面で腕組みした煌先輩が、気難しい表情で尋ねてきた。
「ひとりじゃないです。待ち合わせしてて……えと、私がかなり早めに来ちゃっただけです」
「そういうことか。で、それ何時? 約束の時間まで、あと何分あんの?」
「えと、えと……たぶん、四十分くらい?」
スマホの時間を見て、ざっと計算して答えた。約束よりも二十分くらい遅れるって連絡があったから、それくらいだよね?
そして、奏人からの新着メッセージがないことを確認してからバッグに戻してると、チッという煌先輩の舌打ちが、また頭上で聞こえてきた。
「わかった。お前、ついてこい」
「えっ?」
「あと四十分もここにいたら、また同じような目に遭うぞ、お前。それぐらいなら、俺の用事につき合うほうがマシだろ? だから、一緒に来い」
「え? でもあの、私、ここで待ち合わせ……」
「俺の用事は四十分もかからない。終わればここに戻ってきて土岐が到着するまで一緒にいてやるが? まぁ、つき合うのが嫌なら、このままここにいればいい」
「い、行くっ」
煌先輩からの提案を即答で、ありがたく受け入れることにした。
だって、あんなに怖いのは、もう嫌なんだもん。
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