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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【6.5−11】side奏人
しおりを挟むだが、意外にも涼香は頑なだった。俺の問いに答えることなく、目を伏せ、首を振り続けている。それしか返事のしようがないとでもいうように、きゅっと身を固くして。
「はぁ……」
その様子に、自然と小さな溜め息がこぼれ出た。
仕方ないな。そんな強情な一面も、また可愛い。じゃあ、こうしようか。
「言いたくないんだね。なら言わなくていいよ」
掴んでいた涼香の手を俺の背に回るように引き、同時に腰も引き寄せた。黙っていてもいいが、逃がさない。
「涼香も、同じように触ればいい。俺に『女子がベタベタ触ってた』のが、嫌なんでしょ?」
「……なっ! 何、言っ……」
「ほら、ここ。先輩マネ二人がかりで、ここをバシバシはたかれたんだけど。何か『制服萌え』だとか言いながらさ。涼香も、同じようにしてみる?」
慌てて上がった涼香の否定の言葉を最後まで言わせず、掴んだその手を俺の右肩に誘導した。
さっきの君の勢いは、マネージャーに嫉妬してくれていたんだろう?
どんな接触だったのかを知ったら、安心してくれる?
そう自惚れていいはずだから、強引に行動させてもらうよ。
それに、思い出してみれば不愉快な記憶だが、君になら同じことをされても構わない。
「涼香なら、何してもいいよ。好きにしていい。――ほら、どうぞ?」
むしろ、上書きしてくれ。
肩に誘導した涼香の指が、そろりと二の腕を滑っていく。滑らかな指の感触が、くすぐったい。
細くしなやかな指が、ポロシャツの半袖から出ている腕を撫で、肘の辺りで止まった。そこを掴んだまま、ゆっくりと上がってきた目線を受け止める。
ほんの少しだけ眉が寄せられていて、泣きそうな印象を受けた。
どうした? 今、何考えてる?
「……あの、あのね?」
「ん? 何?」
何でも聞いて?
「えと……どうして、先週のマネージャーさんたちのこと、私に言ってくれなかったの?」
マネージャー? マネージャーが来たことを俺が話してなかったことを気にしてるのか? なぜ?
だが、話してなかった理由といえば――。
「……忘れてた」
「え?」
「忘れてたんだ、そんなこと。だから、さっき涼香に聞かれて驚いた」
俺にとっては、取るに足らないことだからだ。
「え? え? 『忘れてた』って……え?」
「本当に忘れてたんだよ。そんなことがあったことも、涼香に話してなかったことも。このところ、ずっとバタバタしてたし。特に先週から今週にかけては……あ……いや。とにかく、俺にとってそんなに重要なことじゃなかったんだ」
俺の返事にびっくりした様子の涼香に、『忘れてた』と繰り返した。
話してる途中で、昨日、青司さんに聞かれてそのことを思い出したと気づいたが、そこは言葉を濁した。
どのみち、昨日の今日で涼香に伝える暇はなかったわけだし、そもそも嘘は言っていない。
「奏人? そんなに大変? 全部を頑張りすぎたら、倒れちゃうよ?」
腕にかかった涼香の指に力がこもり、心配そうな瞳と、かち合う。
「奏人。あの、ごめんなさい。私、無神経で気が利かなくて」
「なんで、涼香が謝ってるの?」
「え? だって……」
なぜかわからないが、謝られた。可愛らしくセットしたハーフアップの髪が、ぐっと下を向いていく。まるで、自分を責めているかのように。
悪いのは君じゃないでしょ? 顔、上げて?
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