怪奇探偵社の報告書

だすびだ

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夜の使者

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フクロウが現れるたびに事件が起こる――そんな噂話を耳にしたのは、ある依頼者からの電話がきっかけだった。

「最近、うちの近くをフクロウが飛び回っているんです。そのたびに何かが壊れたり、不可解なことが起きたりしていて……怖くてたまりません」

電話越しの声は怯えを含み、早口だった。

依頼主は50代半ばの女性。少し前に夫を亡くし、古びた一軒家で一人暮らしをしているという。フクロウは夜になると庭先や屋根の上に現れるらしい。そして、その直後に何かしらの不運が訪れるのだと彼女は言う。

「一度見に行っていただけませんか?」

その言葉に、僕は依頼を受けることにした。

その家は、住宅街の外れにひっそりと建っていた。古い木造の家屋で、どこか寂れた印象を受ける。依頼者の案内で庭先を見回すが、もちろんフクロウの姿はどこにもない。

「ここに毎晩現れるんです。音もなく、突然……」

依頼者は震えながら指を指した。庭木の一番高い枝先だ。そこに何かが止まっていた痕跡は見当たらないが、確かに何かを感じさせる不気味さがある。

僕とMはその夜、家の中で待機することにした。

時計の針が23時を指した頃、静寂を切り裂くように低い声が響いた。

「フー、ホー……」

僕はその声を耳にして身体が強張った。フクロウの鳴き声だ。

「庭だな」

Mが短く呟き、懐中電灯を片手に外へ出る。僕もその後に続いた。

庭木の上に黒い影が浮かんでいた。電灯の光が影を捉えると、それは確かにフクロウだった。丸い目がこちらを鋭く見据え、ゆっくりと首を傾ける。その様子はどこか人間臭く、妙にこちらを試しているように思えた。

「追い払うべきか?」

Mが棒を手にして構えたが、僕は首を振った。

「まずは観察しましょう」

そう言った瞬間、フクロウは再び低く鳴き声を上げ、翼を広げて飛び去った。

翌朝、依頼者が慌てた様子で報告に来た。

「今朝起きたら、庭の物置の扉が壊れていたんです。フクロウが来た翌日は、必ず何かが壊れたりするんです」

確かに物置の扉は木の部分が裂けていた。しかし、それがフクロウの仕業だとは考えにくい。僕たちは物置を調べたが、特に目立った痕跡は見つからない。ただ、扉の裏側に古びた紙片が挟まっているのを発見した。

その紙片には震えた文字でこう書かれていた。

「たすけて」

その夜もフクロウは現れた。

僕たちは庭先に設置したカメラでその動きを追った。フクロウは一定の場所を旋回し、時折低く鳴き声を上げる。やがて、一羽だけではなく二羽、三羽と現れ、奇妙な動きを見せ始めた。

「これ、何かを示してるのか?」

Mがカメラの映像を見ながら呟く。確かに、フクロウたちの動きには規則性があるように見えた。

翌日、庭の土を掘り返してみると、古びた木箱が出てきた。中には手紙が何通か入っており、いずれも依頼者の亡くなった夫が書いたものだった。

手紙には、夫が仕事の失敗を隠しながらも妻を気遣い続けた心情が綴られていた。そして、彼が亡くなる直前の日付の手紙にはこう書かれていた。

「この手紙が見つかったなら、どうか許してほしい。いつか君に真実を伝えるために残しておいた」


その後、フクロウの姿はぱったりと見なくなった。

「主人が何か伝えたかったのかもしれませんね」

依頼者は微笑みながら、手紙を大事そうに抱えていた。

「フクロウは、本当にただの偶然だったのでしょうか?」

そう問われた僕は、曖昧に頷くだけだった。

フクロウが現れる場所には、何かしらの想いが残されているのかもしれない――そう考えると、少しだけ背筋が寒くなるような気がした。
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