怪奇探偵社の報告書

だすびだ

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不在の証拠

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探偵社の電話が鳴ったのは昼過ぎ。Mがすばやく対応し、数分後には僕に簡単な説明をした。

「浮気調査だ。40代の男性からの依頼なんだが、ちょっと変わってる。奥さんが最近二箇所で目撃されてるらしい」

僕は一瞬聞き間違えたかと思った。「二箇所で? そんなの普通はあり得ないだろう?」

Mは口元に微笑を浮かべた。「その普通じゃないってのが、俺たちの仕事だろ? 依頼人は真剣みたいだし、やってみようじゃないか。Tも連れてな」

翌日、依頼人の中村と待ち合わせたカフェで、僕たちは話を聞いた。中村は落ち着かず、視線をあちこちに動かしながらテーブルを指でリズミカルに叩いていた。

「妻は急に外出が増えて、冷たくなったんです。そして、先週友人が『奥さんを見かけた』と言ってきたんですが、その日は家にいたんですよ」

僕は少し混乱しながら尋ねた。「もしかして、ただの見間違いじゃないですか?」

中村は眉をひそめて首を振った。「いいえ、それが一度だけじゃなくて、二度目もあったんです。別の日、また妻が家にいるはずなのに、ショッピングモールで見かけたって友人が言うんです。」

「それは不自然ですね…」と僕が答えると、Mは冷静にメモを取りながら頷いた。「じゃあ、念のため調査を開始しよう。二箇所で同時に存在しているという話は、ちょっとした都市伝説にでもなりそうだな」

調査初日。僕たちは二手に分かれて監視を行うことにした。僕とMは中村の自宅周辺を見張り、Tはショッピングモールに張り込んでいた。

午後3時、Tから電話が入った。「こっちに奥さんが現れたよ。今、買い物してる。」

僕は驚き、Mを見た。「ちょうど今、自宅から出て行ったばかりなんだが…」

「え? それは…どういうことだ?」Tの声も困惑している。

僕たちは混乱し、どうやら同じ時間に二箇所で目撃されたことが確定した。まるで彼女が二人いるかのように…。

僕たちはすぐに再度監視を続けたが、その後も奥さんが二箇所で目撃されることが続いた。ショッピングモールでは、Tが彼女を追いかけるが、途中で姿を消してしまう。

「まさか、本当に分身でもいるんじゃないか?」Tは半ば冗談めかして言ったが、僕は冗談に聞こえなかった。

Mは深く考え込み、「現実的な説明があるかもしれない。けど、あまりにもタイミングが合いすぎてる…都市伝説の生霊か、何か別の力が働いているように感じるな」と呟いた。

結局、調査の結果、明確な証拠を掴むことはできなかった。奥さんはどちらの場所でも存在しているかのように振る舞っていたが、カメラには映らなかったり、証人の記憶が曖昧だったりと、まるで「影」を追っているような感覚に陥った。

依頼人に報告する際、Mは冷静に言った。「浮気の確たる証拠はありませんでした。ただし、彼女が二箇所で目撃されたという事実は、説明がつかない現象ですね」

「それってどういうことなんですか?」と中村が困惑する。

「まあ、都市伝説のようなものですよ」と僕は少し苦笑いしながら答えた。どこか解決しきれない謎を残しているようで、気持ち悪さが残った。

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数日後、僕はTと一緒にショッピングモールを歩いていた。すると、ふと奥さんに似た姿を見かけた。しかし、すぐに人混みに消えていった。

「また見たのか?」Tが少しからかうように言った。

僕は曖昧に頷いた。「もしかしたら、僕たちが追っていたのは、やっぱりただの『生霊』だったのかもしれないな…」

その瞬間、僕の背筋にぞっとする感覚が走ったが、笑ってごまかした。
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