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妖怪学園入学試験!!

妖怪学園入学試験!!(5)

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 わたしはスカートのポケットから妖怪スマホを取り出してピクシーきてーっ! と叫んだ。すると、スマホの画面が光って、スマホからピクシーが出てくる。ピクシーみたいな小さな妖怪ならいいけれど、雪姫ちゃんみたいな大きな妖怪だとスマホは壊れないかな? と疑問に思ったが、それどころではないと、試験に集中することにした。
「あれ? 洋怪王さま? なんで戦っているの?」
「ふふっ、ピクシー、今は妖怪入試の試験の最中なんですよ。ピクシーもかかってらっしゃい」
「と、とんでもない!? わたしなんかが洋怪王さまに勝てるわけないじゃないですか!? まったく、いおりちゃんはとんでもないところに呼び出してくれたわね!!」
 ピクシーは頬をふくらませて怒っている。
「じゃあさ、戦わないでもいいから、なにか力を貸してよ。アドバイスでもいいからさ」
「うーん、それなら、わたしの力より、いおりちゃんの妖怪としての力の方がいいんじゃないかな?」
 わたしの妖怪としての力? それってなんだろう?
 煙がはれてきた、剣士くんを取り囲む大爆発が起きても体育館の床は傷一つついていない。剣士くんは両手に刀を握って、おのれ、と呟く、なんとか立っているようだった。
 このままじゃ、剣士くんは負けちゃうよ!?
「わたしの妖怪の力ってなに? ピクシー教えて!!」
「え? 気づいていないんですか? てっきり知っているものだとばっかり。自分のことだし」
「自分のことだってわからないことがたくさんあるの。だって、剣士くんに出会うまではいじめられていて、勉強も運動もダメな生徒だったんだもん」
「あなたは、妖怪大王ようかいだいおう卑弥呼ひみこさまの子孫ですよ」
「ひみこ? 卑弥呼って、ずっと昔の弥生やよい時代の邪馬台国やまたいこく活躍かつやくした巫女みこのこと?」
「そうですよ。いくつもの妖術を使えた天才です。でも、一番すごいのは、日本の初代妖怪王だということです。中でも卑弥呼さまが得意としたのは妖怪の力を何倍にもするまいの術です」
 妖怪の力を増す舞の術……わたしの踊りで妖怪が強くなるってことかな? そんなこと雪姫ちゃんも教えてくれなかったけれど。でも、舞って、なにをすればいいの? 普通に踊ってもダンスの練習中なにも起きなかったし。
「どんなダンスをすればいいかピクシーは知ってるの?」
「いや、そんなことわたしが知ってるわけないじゃない」
 それもそうか。
「大丈夫だよ、いおり。ぼくは負けないっ!」
「女の子の前だからって強がっちゃって。もう1発同じ術をくらったら……死んじゃうかもよ?」
 ぞっとするほど冷たい声だ。こんな声、聞いたことがない。
「なんとかして! お願いっ! 漫画なんでも読んでいいから! お菓子も買ってあげるから!」
「ええっ!? そ、そんなことを言われてもな……そうだ、わたしの術でいおりちゃんの潜在意識せんざいいしきを呼び出してみますか?」
「潜在意識? なにそれ?」
「眠っているもうひとりの自分みたいなものですよ。隠された力とか。でも、まあ、何も起きない可能性の方が高いけど……」
「いいよっ! やってみて! お願い!」
「時間もなさそうだし、わかりました!」
 わたしの頭上を金色の粉が降り注ぐ。

「……」

「いおりちゃん?」
 ピクシーが心配そうにわたしを見つめている。
「なんだ、ここは……」
 わたしの口が勝手に動いた。
「!? この妖気は卑弥呼のもの? とっくに死んだはずなのに……」
 先生が後ろに飛んだ。昔の妖怪なんて大したことないって言っていたのに、卑弥呼は別格なのだろうか?
「立て、我が婚約者こんやくしゃよ」
 婚約者!? 婚約者って、将来結婚しようって約束してる人じゃない。わたしにはそんな人はいないよ!?
「卑弥呼か……久しいな。といっても、卑弥呼と出会ったのは、君が病気で死んで、次の妖怪王にぼくが決まった時じゃないか」
 へぇ、妖怪も病気になるんだ。
「そうじゃったな。それにしても、ひどい有様ありさまじゃのう」
「そう思うなら、力を貸してくれ」
「言われずともわかっておるわ」
 卑弥呼なのか自分なのかよくわからないけど、両手を結んで祈るだけで、身体が光り輝いた。
「すごいな、力が溢れてくる」
「借り物の身体だからこれくらいしかしてやれん……」
「十分だ」
 剣士くんの刀が洋怪王を覆っているシャボン玉のような膜を刀で切り裂いた。
「これで、貴様に刀が届くぞ……」
 そうすると先生はパチパチと両手を叩いて、合格です。と言った。
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