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不登校の兄
不登校の兄(1)
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「いおりのお兄ちゃんて、海上中学に進学したのに不登校なんだろ?」
兄の話だ。兄の羽瀬川すばるは、この夜上小学校を優秀な成績で卒業して名門私立中学である海上中学に進学した。昔はかっこよくて頭の良い兄が自慢だったけれど、引きこもりになってぶくぶくと太りだしてからは話すことも無くなった。
「いやだな、たまたま苗字が同じ羽瀬川なだけだよ。あんなの兄じゃないし」
クラスから除け者にされないために、心にもないことを言う。こういう時、少しだけ心が痛む。わたしは兄の不登校をなんとも思っていないというか、むしろ兄が大好きなのだけれど、お母さんやお父さんはひどく落胆していたし、クラスメイトからは悪口を言われるようになったからだ。
「そうなのか、不登校とかダサいもんな。弱い人間がなるものだって母ちゃんがいってた」
男子はそう言ってわたしの席から離れようとする。そんなことないと思う。別に不登校はダサくない。ただ不器用なだけだと思う。毎年どこのクラスでも3人くらいは大抵いたし。
そう思った時に、同じクラスの愛ちゃんがわたしに声をかけてきた。
「あれぇ? あのデブも整形デブのお兄さんだってお母さんが言ってたよ」
すると男子は振り返って、わたしに暴言を吐き捨てる。
「なんだよ、嘘つき! やっぱり引きこもりの兄がいると妹も嘘つきだな。この整形デブ!」
整形デブというのはわたしがぽっちゃりしていて、顔のほくろを取り除く手術をしたからだ。今時みんなやってるよと医者の母は言っていたし、わたしも気になる場所だったから夏休み中に取り除いた。手術といってもニキビを取り除くようなものだと思う。こういう時、周りが大人な落ちた国立小学校だったらいじめられたりしないだろうなと思う。わたしはぐっとくちびるを噛んだ。くやしい。なんでみんなわたしや兄のことを悪く言うの。でも、わたしもクラスメイトと同じかもしれない。兄をいないものみたいに言っちゃったし。
「整形デブも小学校やめちゃえば? 気持ち悪いんですけど」
クラスのリーダー的存在の神城さんがお人形さんみたいなきれいな顔についた目を細めてわたしに笑いかけた。
「小卒とかウケる!」
「幼稚園卒だろ!」
心無い同級生たちの言葉。気持ちがとっても暗くなって、心臓がぎゅっとしめつけられたようになる。瞳からは涙がこぼれそうになった。なんでわたしばっかりこんな目にっ!
最近、家でお母さんがよく言う言葉を、わたしもつぶやいた。『なんでわたしばっかりこんな目にっ!』
そんな時だった。
「きみたちなにしてるの? もしかして、これっていじめ?」
わたしの背後から知らない男子の声が聞こえた。振り向くと、背の高い活発そうな黒髪の少年がわたしのことをかばっていた。
「いじめって犯罪なんだよ。君たち逮捕されちゃうかもよ。幼稚園卒になるのはどっちかな?」
「な、なんだよ。隣のクラスのやつか? 勝手に5年1組の教室に入って来るんじゃねーよ」
負けずに男子が暴言を吐くが、涼しい顔をして無視していた。
「僕は転校生の宮沢剣士、童話作家の宮沢賢治とは字が違うんだよ。剣を使う剣士って書くんだ」
「このやろう! 無視するんじゃねぇ!」
剣士は胸ぐらをつかんだ同級生の手を無理やり離したかと思うと、にっこりと握手をした。すごい力だ。
兄の話だ。兄の羽瀬川すばるは、この夜上小学校を優秀な成績で卒業して名門私立中学である海上中学に進学した。昔はかっこよくて頭の良い兄が自慢だったけれど、引きこもりになってぶくぶくと太りだしてからは話すことも無くなった。
「いやだな、たまたま苗字が同じ羽瀬川なだけだよ。あんなの兄じゃないし」
クラスから除け者にされないために、心にもないことを言う。こういう時、少しだけ心が痛む。わたしは兄の不登校をなんとも思っていないというか、むしろ兄が大好きなのだけれど、お母さんやお父さんはひどく落胆していたし、クラスメイトからは悪口を言われるようになったからだ。
「そうなのか、不登校とかダサいもんな。弱い人間がなるものだって母ちゃんがいってた」
男子はそう言ってわたしの席から離れようとする。そんなことないと思う。別に不登校はダサくない。ただ不器用なだけだと思う。毎年どこのクラスでも3人くらいは大抵いたし。
そう思った時に、同じクラスの愛ちゃんがわたしに声をかけてきた。
「あれぇ? あのデブも整形デブのお兄さんだってお母さんが言ってたよ」
すると男子は振り返って、わたしに暴言を吐き捨てる。
「なんだよ、嘘つき! やっぱり引きこもりの兄がいると妹も嘘つきだな。この整形デブ!」
整形デブというのはわたしがぽっちゃりしていて、顔のほくろを取り除く手術をしたからだ。今時みんなやってるよと医者の母は言っていたし、わたしも気になる場所だったから夏休み中に取り除いた。手術といってもニキビを取り除くようなものだと思う。こういう時、周りが大人な落ちた国立小学校だったらいじめられたりしないだろうなと思う。わたしはぐっとくちびるを噛んだ。くやしい。なんでみんなわたしや兄のことを悪く言うの。でも、わたしもクラスメイトと同じかもしれない。兄をいないものみたいに言っちゃったし。
「整形デブも小学校やめちゃえば? 気持ち悪いんですけど」
クラスのリーダー的存在の神城さんがお人形さんみたいなきれいな顔についた目を細めてわたしに笑いかけた。
「小卒とかウケる!」
「幼稚園卒だろ!」
心無い同級生たちの言葉。気持ちがとっても暗くなって、心臓がぎゅっとしめつけられたようになる。瞳からは涙がこぼれそうになった。なんでわたしばっかりこんな目にっ!
最近、家でお母さんがよく言う言葉を、わたしもつぶやいた。『なんでわたしばっかりこんな目にっ!』
そんな時だった。
「きみたちなにしてるの? もしかして、これっていじめ?」
わたしの背後から知らない男子の声が聞こえた。振り向くと、背の高い活発そうな黒髪の少年がわたしのことをかばっていた。
「いじめって犯罪なんだよ。君たち逮捕されちゃうかもよ。幼稚園卒になるのはどっちかな?」
「な、なんだよ。隣のクラスのやつか? 勝手に5年1組の教室に入って来るんじゃねーよ」
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「僕は転校生の宮沢剣士、童話作家の宮沢賢治とは字が違うんだよ。剣を使う剣士って書くんだ」
「このやろう! 無視するんじゃねぇ!」
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