12 / 66
第一章
十一話
しおりを挟む
「魔物が勇者のいるこの村に……? 有り得ないわね」
肩に鴉をとまらせ露出度の高いウィザードドレスに身を包んだ女性が言う。
彼女はミランダ。色気のある年齢不詳の黒髪美女で『魔導女帝』の称号を持つ大魔女だ。
エミリアさんと同じく、ライルと一緒に魔王を討伐した伝説の戦士の一人でもある。
私がエミリアさんに先程リンナにされたことを話している最中、彼女がこの家に訪れたのだ。
どうやら二人で一緒にここまで来たらしく私はエミリアさんに乞われてミランダさんにも同じ説明をした。
そして私が話し終えた後十秒ほどしてから彼女が言ったのが冒頭の言葉だ。
リンナの正体が魔物だという自分の考えを否定されてショックを受けたが、素早くエミリアさんが反論する。
「有り得ないなんてことは有り得ませんわ!!決めつけは悪ですわよミランダ!!」
それは物凄い大きな声だった。正直村中に聞こえたかもしれない。
エミリアさんは聖職者の衣装を身に着けている通り、正義に厚く礼儀正しく心優しい淑女なのだが。
声が、声が非常に大きいのだ。主張したいことがあればある程大きくなるらしい。
私は思わず耳を抑えたが慣れているのかミランダさんは少ししかめっ面をしただけだった。
「魔物の全てが勇者に怯えるわけではありません!!寧ろ勇者がいるからこそ侵入を試みる魔物もいる筈ですわ!!」
「エ、エミリアさん、声、声をもう少し小さく……」
「申し訳ありませんわ!」
「確かにそうだけれど……だからこそ村への侵入を許さない為に色々対策を講じているのよ?」
ミランダさんが冷静に仲間に説明する。確かにその対策についてはライルが村に連れてこられた時に彼女からされていた。
まずライルがこの村にいることを公表しない。麓の街に住んでいるということにして、ライル宛の贈り物は検閲してからこの村に届けられる。
次に大魔女であるミランダさんが作成した高性能の魔物避けや魔物を感知する為の呪具。それを村内やその周囲に多数設置する。
そして定期的にライル以外の魔王討伐メンバーが村の様子を見に来る。
この村の出身であるライルを村長である叔父さんたちは元々受け入れるつもりだったが、この魔物対策に非常に喜んでいたので強く覚えている。
それに偶に村の周囲を強い魔物がうろついている場合はライルが気付いて討伐しているとも聞かされていた。
だから、魔導女帝に「有り得ない」と断言されると確かにそうかもしれないと思ってしまう。けれどやはり、あの時のリンナは異常だった。
「でも……私の思い込みかもしれないけれど、あの時のリンナはリンナじゃ絶対なかったんです。信じて貰えないかもしれないけれど……」
「信じますわ!!」
私の言葉に食い気味でエミリアさんが断言する。相変わらず耳が痛くなるよう大声だけれど、とても嬉しかった。
「ミランダはなぜ魔物をライルが見逃したかも疑問なのでしょうけれどそれはライルに聞けばいいのです!!確かめることは罪ではありませんわ!!」
「確かにそうだけれど……魔物じゃなかった場合、アディちゃんとそのお嬢さんの力関係が不味くならないかしら?」
私をちらりと見てミランダさんが言う。妖艶な美貌を纏いながらその表情にはこちらを気遣うような不安が浮かんでいた。
そう言えば以前彼女は故郷の村で迫害されていたと酒の席で私に言っていた。ミランダさんなりに私の立場を心配してくれたのかもしれない。
私は、大丈夫ですと彼女に答える。どうせ近い内にこの村を出るのだ。
「もし勘違いならその時に謝罪をすればいいのですわ!!さあ、二人とも参りましょう!!悪を見極めに!!」
私達の手を引いてエミリアさんが力強く宣言する。
魔物が村にいた場合、この大声だけで逃げ出してしまいそうだなと思った。
肩に鴉をとまらせ露出度の高いウィザードドレスに身を包んだ女性が言う。
彼女はミランダ。色気のある年齢不詳の黒髪美女で『魔導女帝』の称号を持つ大魔女だ。
エミリアさんと同じく、ライルと一緒に魔王を討伐した伝説の戦士の一人でもある。
私がエミリアさんに先程リンナにされたことを話している最中、彼女がこの家に訪れたのだ。
どうやら二人で一緒にここまで来たらしく私はエミリアさんに乞われてミランダさんにも同じ説明をした。
そして私が話し終えた後十秒ほどしてから彼女が言ったのが冒頭の言葉だ。
リンナの正体が魔物だという自分の考えを否定されてショックを受けたが、素早くエミリアさんが反論する。
「有り得ないなんてことは有り得ませんわ!!決めつけは悪ですわよミランダ!!」
それは物凄い大きな声だった。正直村中に聞こえたかもしれない。
エミリアさんは聖職者の衣装を身に着けている通り、正義に厚く礼儀正しく心優しい淑女なのだが。
声が、声が非常に大きいのだ。主張したいことがあればある程大きくなるらしい。
私は思わず耳を抑えたが慣れているのかミランダさんは少ししかめっ面をしただけだった。
「魔物の全てが勇者に怯えるわけではありません!!寧ろ勇者がいるからこそ侵入を試みる魔物もいる筈ですわ!!」
「エ、エミリアさん、声、声をもう少し小さく……」
「申し訳ありませんわ!」
「確かにそうだけれど……だからこそ村への侵入を許さない為に色々対策を講じているのよ?」
ミランダさんが冷静に仲間に説明する。確かにその対策についてはライルが村に連れてこられた時に彼女からされていた。
まずライルがこの村にいることを公表しない。麓の街に住んでいるということにして、ライル宛の贈り物は検閲してからこの村に届けられる。
次に大魔女であるミランダさんが作成した高性能の魔物避けや魔物を感知する為の呪具。それを村内やその周囲に多数設置する。
そして定期的にライル以外の魔王討伐メンバーが村の様子を見に来る。
この村の出身であるライルを村長である叔父さんたちは元々受け入れるつもりだったが、この魔物対策に非常に喜んでいたので強く覚えている。
それに偶に村の周囲を強い魔物がうろついている場合はライルが気付いて討伐しているとも聞かされていた。
だから、魔導女帝に「有り得ない」と断言されると確かにそうかもしれないと思ってしまう。けれどやはり、あの時のリンナは異常だった。
「でも……私の思い込みかもしれないけれど、あの時のリンナはリンナじゃ絶対なかったんです。信じて貰えないかもしれないけれど……」
「信じますわ!!」
私の言葉に食い気味でエミリアさんが断言する。相変わらず耳が痛くなるよう大声だけれど、とても嬉しかった。
「ミランダはなぜ魔物をライルが見逃したかも疑問なのでしょうけれどそれはライルに聞けばいいのです!!確かめることは罪ではありませんわ!!」
「確かにそうだけれど……魔物じゃなかった場合、アディちゃんとそのお嬢さんの力関係が不味くならないかしら?」
私をちらりと見てミランダさんが言う。妖艶な美貌を纏いながらその表情にはこちらを気遣うような不安が浮かんでいた。
そう言えば以前彼女は故郷の村で迫害されていたと酒の席で私に言っていた。ミランダさんなりに私の立場を心配してくれたのかもしれない。
私は、大丈夫ですと彼女に答える。どうせ近い内にこの村を出るのだ。
「もし勘違いならその時に謝罪をすればいいのですわ!!さあ、二人とも参りましょう!!悪を見極めに!!」
私達の手を引いてエミリアさんが力強く宣言する。
魔物が村にいた場合、この大声だけで逃げ出してしまいそうだなと思った。
11
お気に入りに追加
6,097
あなたにおすすめの小説
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
彼を奪った幼馴染が、憎くて憎くて仕方がない
ヘロディア
恋愛
付き合いたての恋人と、頻繫に愛し合ってお互いを求めている幸福に溺れている主人公。彼女は幸せの絶頂期にいたが、ある日突然彼に別れを告げられる。
2週間後、元カレとなった彼は知らない女性と街を歩いていて…
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」
これが婚約者にもらった最後の言葉でした。
ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。
国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。
やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。
この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。
※ハッピーエンド確定
※多少、残酷なシーンがあります
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2021/07/07 アルファポリス、HOT3位
2021/10/11 エブリスタ、ファンタジートレンド1位
2021/10/11 小説家になろう、ハイファンタジー日間28位
【表紙イラスト】伊藤知実さま(coconala.com/users/2630676)
【完結】2021/10/10
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
【完結】聖女ディアの処刑
大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。
枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。
「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」
聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。
そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。
ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが――
※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・)
※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・)
★追記
※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。
※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。
※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる