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第一章

七話

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 信じられないことに一晩経ってもライルたちはまだ私の家にいた。

 食卓には私が昨日の朝焼いたパンと、見慣れない食器に盛られた料理があった。

 ポテトとベーコンを炒めたものと卵料理のようだが、湯気はなくあまり匂いもしないので大分前に冷めているのかもしれない。

 ライルは行儀悪い姿勢で椅子に座り不味そうな顔で私の焼いたパンを齧っていた。

 そしてその向かいには私のカップを使ってお茶を飲んでいる女性。

 この村は小さいから住人の顔も名前も全員覚えている。

 彼女はリンナ。今年十九になる綺麗な娘だ。

 私は彼女の姉のエドナと仲が良かった。

 二人とも村生まれとは思えない程洗練された美貌を持っていて、エドナは街に働きに行った後貴族の愛妾になったと聞いた。

 姉に劣らず美しい彼女をライルが口説いたのもわかる。ただ私の家には連れ込まないで欲しかった。

 彼女は私の物をいつだって欲しがるから。

 幼いリンナはエドナに連れられて遊びに来る度に小さな手作りの人形やハンカチ、髪飾りを黙ってポケットの中に入れた。

 そして気づいた姉が私に返そうと取り上げると火が付いたように大泣きして暴れるのだ。

 もういらないものだから、沢山あるからと最初にそのままあげてしまったのが駄目だったのかもしれない。

 ただ妹の手癖の悪さに気づいたエドナはリンナを連れてこなくなりそれ以上のことはなかった。  
 
 そして私と仲の良かった彼女が村を去った後に年の離れたリンナと話す機会は滅多になかったのだけれど。


「あっ、お邪魔してまぁす」

「……来客用のカップなら、別にあるってライルは知っているわよね?」

「そーなんだ、でも別によくなぁい?私気にしないしぃ」


 最初に声をかけてきたのはリンナの方だった。

 私は彼女ではなくその向かいに座っているライルに責める言葉を投げる。

 返答しない彼の代わりにリンナが返事をしたが、それは私に彼女との相性の悪さを実感させただけだった。


「お前ら、いい年をして他人様の家で何してるんだ。ここはアディの家だぞ!」


 勝手に入り込むなんて泥棒と同じだ、そうレン兄さんが二人に説教をする。

 けれどリンナは自分はライルに連れてこられただけだと全く悪びれなかった。

 そして、ライルは。


「……そっちこそ、いい年して男連れて朝帰りかよ。馬鹿じゃねーの」


 恥を知れよ。そう吐き捨てる様に言われ、私は指先が冷たくなった。

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