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エピローグ

122話 次代の英雄

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「そうなんだ、じゃあ又ね」

 彼はそれだけ告げると掴みどころのない笑みを浮かべ去っていった。 
 そうして気づいたら街から居なくなっていた。
 クロノも彼から別れの挨拶をされたらしいけれど、いつ旅立ったかは不明らしい。
 秘密主義なところのあるノアらしかった。


 竜を見てないという俺の嘘にノアが気づていたかはわからない。
 そして俺がどうしてあの時彼に嘘を吐いたのかもわからなかった。

 洞窟に竜は存在した。
 叡智の白竜エレクトラ。知の女神エレナにそっくりな少女。 
 巨大な湖の底で眠り続けていた神竜。

 魔王に倒され、それからずっと死んだ振りをし続けていると話していた。
 自分が生きていることがばれると魔王の封印が解けてしまうからと。

「魔王、か……」

 俺は街外れの森を歩きながら呟く。
 もしかしたらそれが理由なのかもしれない。

 エレクトラの存在を他言することで封印が解ける可能性を危惧したのだ。
 ノア一人に話したところでそれが広まるとは思えないけれど。

「俺は小心者だからな」

 そう自分を納得する。
 しかしその理屈だと洞窟内に調査が入るのは不味いのではないだろうか。
 だが彼女は特別な力を持つ神竜だ。
 上手く気配を隠してやり過ごすかもしれない。 

 それか騎士団に事情を話して黙っていて貰うか。
 彼らだって魔王が目覚めることは望んでいないだろう。

 今回だった幹部の女魔族一人に大勢の冒険者が殺されかけたのだから。
 俺にそっくりに化けたスライムの魔物もいたが、あれはそこまで強くなかった。
 化けた相手が悪かったのだろう。転生前の俺とか無害無力の塊みたいな存在だ。

 そして今アルヴァとして生きている俺にはスライム特攻のスキルがあった。
 考え事をしながら歩いていると懐かしい光景が目に入る。

 ところどころ掘り起こされ穿たれた荒れた地面。
 以前トマスに頼まれ巨大スライムと戦った場所だ。
 今は小さなスライム一匹すら見かけない。

 体調が戻った冒険者たちにより街付近の魔物は一掃された。
 スライムは特に念入りに殲滅されたらしい。
 鬱憤晴らしみたいなところがあったとは、俺より早く回復して魔物退治に勤しんでいたカースの談だ。

 魔物に捕まって延々と悪夢を見せられ続けたのだからストレスも溜まっただろう。
 それを体を動かすことで発散出来ているなら悪い事ではない。
 ただ捕まっていた冒険者の多くは女魔族キルケーが生み出した精神世界での出来事を詳細に覚えていないらしい。

 魔法で悪夢を見せられているところに、俺とクロノが助けに行って、女魔族キルケーと戦いになって勝って夢から脱出できた。
 湖から全員で力を合わせて体を救出して洞窟から出て村へ戻った。

 大体これぐらい覚えていたら上等だということだ。
 オーリックが魔物になった姿を覚えている人間は相当数いたが、クロノが二人になったことは大半が忘れていた。
 まあ女性陣が見せられていた悪夢の内容を考えれは鮮明に思い出す努力をしなくてもいいと思う。
 青年のクロノも、そして本当のアルヴァ・グレイブラッドのことも俺が覚えていればいいのだ。
 そして、絶対に忘れない。

 俺は手ごろな切り株に腰かけ家から持参したサンドイッチを食べ始める。
 爽やかな風が肌に触れる。

「……ここは静かでいいな」

 そう独り言を呟いた。
 最近アジト内でも街の中でも人の話しかけられることが多い。
  
 知り合いに限らず顔だけ知っているレベルの人間からも声を掛けられる。 
 魔族と戦い大勢の冒険者を救った人物として、今アルヴァは拠点の街で「英雄」と認識されていた。
 まるで以前の金級冒険者オーリックのように人々は目つきの悪い赤髪の剣士をちやほやしだすようになったのだ。


 
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