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第三章
61話 空腹とカラカラのパン
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それから少しして用があるとノアは帰っていった。
結局彼が滞在している間クロノが目覚めることはなかった。
しかし呼吸は安定しているし、その表情に苦痛も見られない。
ノアの言った通り疲労を癒す為の睡眠なら翌日まで様子を見ても良いだろう。
だが俺はその間何をするべきだろうか。
ノアと話して気分が落ち着いたのか先程から空腹を感じている。
けれど深く眠るクロノを一人きり置いて外出するのは躊躇われた。
ノアに留守番を頼んで総菜を買いに行けば良かったと後悔しても遅かった。
こういう要領の悪さは灰村タクミの時からだ。嫌になる。
少し前彼を見送りがてら台所で水を飲んだが、確認出来た食料は芋に乾燥パンと干し肉程度だった。
俺とクロノ以外は全員数日単位でアジトを留守にしているので仕方がない。
しかも俺は台所での火の使い方がわからなかった。この時点で芋は食料から外れる。
家事を担当していたクロノが起きれば、煮炊きは出来るようになるだろう。
しかしそれは大人としてかなり情けない。
とりあえず干し肉と乾燥パンを二人分だけ持ち出す。それと水が入ったコップを二つ。
それを盆にのせてクロノの部屋に持って行くことにした。
黒髪の少女の部屋にはやたら装飾が派手なサイドテーブルがある。恐らくミアンから譲られた物だろう。
他に一脚だけ置かれた木の椅子に座りながら俺は自分のパンを齧った。不味くはないが固い。
水が無ければ食べ進めるのも難しい。口の中の水分をどこまでも奪っていく。
半分ほど食べたところでうんざりしてカチカチのパンを皿の上に置く。
急に日本に帰りたくなった。願ってもそれは無理なのだが。
この世界の食糧事情はどうなっているのだろう。改めて考える。
俺が中学生の頃書いた小説を流用しているならカレーやスパゲッティぐらいは存在しても良い筈だ。
ミアンに食べ尽くされたクリームたっぷりのパン菓子を思い出す。
ああいう物があるなら一般的な食事についてもそこまで前時代的では無いと思いたい。
このパンも干し肉も冒険に持っていく為あえて保存用に乾燥させ切っているのだろう。
そんなことを考えれば考える程腹が減ってくる。
しかし軽石のようなパンを口に運ぶ気分ではない。
こういう時ミアンのように簡単に湯を沸かせれば芋を茹でることが出来たのに。
いや彼女なら手でそっと握るだけで焼き芋になるのかもしれない。
火の魔術というのは本当に便利だ。
そう羨むと脳裏でツインテールの魔女が「誰でもできる訳じゃなく私が特別なのよ!」と主張してきた。
実際それは正しいのだろう。
「……今頃何してるかな」
彼女たちは今アキツ村に滞在している。
魔物退治をしているのかそれとも自慢の温泉を堪能しているのか判断がつき難い時間帯だ。
もしかしたら食事をしているかもしれない。
温泉で茹でた卵や野菜は美味いと聞いたことがある。情けない欲望が口を突いて零れる。
「塩振っただけのふかし芋でもいいから、腹一杯食いたいなあ」
言葉に呼応するようにぐうと派手な音が鳴った。
俺の腹の虫の鳴き声ではない。
心当たりに視線を移すと耳まで真っ赤にした黒髪の少女が顔をシーツで隠していた。
結局彼が滞在している間クロノが目覚めることはなかった。
しかし呼吸は安定しているし、その表情に苦痛も見られない。
ノアの言った通り疲労を癒す為の睡眠なら翌日まで様子を見ても良いだろう。
だが俺はその間何をするべきだろうか。
ノアと話して気分が落ち着いたのか先程から空腹を感じている。
けれど深く眠るクロノを一人きり置いて外出するのは躊躇われた。
ノアに留守番を頼んで総菜を買いに行けば良かったと後悔しても遅かった。
こういう要領の悪さは灰村タクミの時からだ。嫌になる。
少し前彼を見送りがてら台所で水を飲んだが、確認出来た食料は芋に乾燥パンと干し肉程度だった。
俺とクロノ以外は全員数日単位でアジトを留守にしているので仕方がない。
しかも俺は台所での火の使い方がわからなかった。この時点で芋は食料から外れる。
家事を担当していたクロノが起きれば、煮炊きは出来るようになるだろう。
しかしそれは大人としてかなり情けない。
とりあえず干し肉と乾燥パンを二人分だけ持ち出す。それと水が入ったコップを二つ。
それを盆にのせてクロノの部屋に持って行くことにした。
黒髪の少女の部屋にはやたら装飾が派手なサイドテーブルがある。恐らくミアンから譲られた物だろう。
他に一脚だけ置かれた木の椅子に座りながら俺は自分のパンを齧った。不味くはないが固い。
水が無ければ食べ進めるのも難しい。口の中の水分をどこまでも奪っていく。
半分ほど食べたところでうんざりしてカチカチのパンを皿の上に置く。
急に日本に帰りたくなった。願ってもそれは無理なのだが。
この世界の食糧事情はどうなっているのだろう。改めて考える。
俺が中学生の頃書いた小説を流用しているならカレーやスパゲッティぐらいは存在しても良い筈だ。
ミアンに食べ尽くされたクリームたっぷりのパン菓子を思い出す。
ああいう物があるなら一般的な食事についてもそこまで前時代的では無いと思いたい。
このパンも干し肉も冒険に持っていく為あえて保存用に乾燥させ切っているのだろう。
そんなことを考えれば考える程腹が減ってくる。
しかし軽石のようなパンを口に運ぶ気分ではない。
こういう時ミアンのように簡単に湯を沸かせれば芋を茹でることが出来たのに。
いや彼女なら手でそっと握るだけで焼き芋になるのかもしれない。
火の魔術というのは本当に便利だ。
そう羨むと脳裏でツインテールの魔女が「誰でもできる訳じゃなく私が特別なのよ!」と主張してきた。
実際それは正しいのだろう。
「……今頃何してるかな」
彼女たちは今アキツ村に滞在している。
魔物退治をしているのかそれとも自慢の温泉を堪能しているのか判断がつき難い時間帯だ。
もしかしたら食事をしているかもしれない。
温泉で茹でた卵や野菜は美味いと聞いたことがある。情けない欲望が口を突いて零れる。
「塩振っただけのふかし芋でもいいから、腹一杯食いたいなあ」
言葉に呼応するようにぐうと派手な音が鳴った。
俺の腹の虫の鳴き声ではない。
心当たりに視線を移すと耳まで真っ赤にした黒髪の少女が顔をシーツで隠していた。
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